時遡る君
暫く二人で休んでいると、夕餉が二膳、運ばれてきた。ゆっくりと食事をとる。やっと食べ物の味がわかる……美味しい。
食事を進めながらぽつりぽつりと、秀青さんが語り始めた。
「刺されて死んだ後さ、手紙の指示通り、過去に遡ったんだ。あの世って時間の縛りが無くてさ。インターネットって過去の記事をよめたりするだろ?あれと同じ。」
「Way back archiveみたいな感じかな?」
「そう。そんな感じで過去に戻り、二回めの人生スタートさせるんだ。五才の時に父親の不倫を糾弾して、母と別れさせる。それから、もう一つの体の安全を確保するためにさ、室生家に養子縁組という形に持っていったんだ。」
「新しい体は全く思う様に使えないし、俺が不倫を暴いたせいで母はずっと泣くし、辛くてさ。父親と違って僕は血が繋がっているから絶対母さんのそばにいるよ。……って慰めたり、あの時は結構大変だった。」
……過去の大変さを思い出しているのか、彼のお箸が止まっている。
「ってことは? 秀青さん、人生二周目だったから、四十八年分ぐらい生きてる?」
「そう。精神年齢、四十八歳」
(時々、子供っぽいけど) 私が心の中でそう突っ込むと、すかさず声が返ってきた。
「俺が子供のようになるのは初音に関わる時だけだ。」
うっ。心よまれた。
「……喋らなかったのは、なかなか体に馴染めなかったから?」
「あぁ、それもあるけど。新しい透青の身体って、ちょっと特殊な脳でさ。色んな見たくないものや、聞きたく無い人の心もわかってしまうから、出来るだけ体に入らなかったって理由もある」
「……人の心がわかっちゃうなんて、地獄ですもんね」
「でも、人間捨てたもんじゃないってわかったのが十歳頃かなぁ。」
「支援学級に入れられて、校庭にずっと体を置きっぱなし状態にしてたら、悪ガキどもに芋虫や蜘蛛やらゲジゲジなんかを服の中に入れられたんだ」
「あ。」 私、思いだした。
「女の子が駆け寄って来て、虫達を取り除いてくれたんだ。蜘蛛が大嫌いで目を瞑りながら取ってくれた。」
「…………」
私が黙っていると、秀青さんは私の目を真っ直ぐ見つめながら言った。
「あの時は、ありがとう。」




