靴下の裏と表
事前の連絡もせず、いきなり本家の御屋敷に来てしまった。唯一私を支えている疑問がそうさせる。
インターホン越しに取り次いでもらったものの、「アポイントメントなしの訪問者をお通しすることはできません」とあっさり追い返されてしまう。
途方に暮れて立ち尽くしていると、裏口の方から静かな足音が近づいてきた。
「こちらからお入り下さい。お役目様が入って良いと。」
振り返ると、そこには惟光さんがいた。
「ただいまハザマ様は、検察や弁護士の元を訪問されておりご不在でございます。中で待たれてはいかがでしょうか」
お役目様のご厚意に甘えさせていただくことにした。
神棚が祀ってある部屋に通されると、
お役目さまが
「事情は聞いておりますよ。とても痩せましたね……」
「ええ、ここまで回復するのに時間がかかりました」
何から切り出せばいいのか分からなかった。
何か恐ろしいことが起こるのだと、手紙で事前に伝えていたはずだ。それなのに、どうして透青様は秀青さんを助けてくれなかったのだろうか?
憤りに近い感情が、胸の奥から急速に吹き出してきそうになる。
そんな私の動揺を見透かしたように、お役目様は静かに言葉を続けた。
「あなたを通して透青が渡した手紙に何が書かれているかは分かりません。けれど、今回の事件は然るべき形に収まり、あなたも納得する形で事態は収束しますから、安心なさい」
「わからない、わからない、わからない。
何をおっしゃられているのか、全くわからない。秀青さんは生き返らないのに、納得だなんて……絶対、出来ないです。」
「あの世は、人間からは計り知れない程、理路整然とした設計図があるんだけど、人間の視点からはめちゃくちゃに見えるの。」
「例えると、そぉねぇ。」
「昔ね、孫達のために可愛い柄の靴下を買って上げて、ほら、使う前に一度洗うでしょ?
裏側の糸のせいで可愛いキャラクターがまるで怖い絵柄になっていて驚いたことがあったの。
その時思ったの。
靴下の裏側からは物凄く怖く見えるけど、表は綺麗。私たちはこの世で、靴下の裏側のような絵しか見ることができないから、ひどい事件にしか思えない」
「一度、月島の家であの手紙を読ませてもらったら?惟光に運転させるから。」
私ははっとした。
あの手紙が、今回の事件の真相につながっている。どうしても、真相が知りたい。
「惟光さん。車を出していただけますか?」
「もちろんですとも、初音さま。」




