カブトムシの養殖
動揺を隠せずにいた私に、救いの手が差し伸べられた。
「あ、室生さん? 話があるの。ちょっと来てくれる?」
そう声をかけてくれたのは沙藤 美麗だった。
ホッと胸をなでおろす。
透青様が「この子は真犯人じゃない」と言ってくれたのだから、彼女を信じよう。
「沙藤さん、なに?」
「別に。不穏な空気を感じたから呼んだだけよ」
「ありがとう、助かったわ」
胸を撫で下ろしつつ、気になっていた疑問を口にする。
「ねえ、前に言っていた“ 秀青さんが他学科の生徒に手を出す ”って話だけど……あれって、以前にも何かあったってこと?」
「そうよ。あの安納 栞って子が前の彼女」
「あぁ、やっぱり……」
「月島さん、モテるけど同じ学科の子を選んじゃうと後々面倒でしょ。だから安納 栞を選んだのよ。でも彼女、本気になった上に独占欲と嫉妬が酷くて別れたみたいだけど」
「独占欲と嫉妬なら私にもあるし。誰でもそうなのに、それが嫌になって別れる?沙藤さんは、秀青さんのそういうところを見ても嫌いにならないの?」
「安納って子を見てヤバいって感じないの? 鈍いわね、あなた。あの子の本当の性格を知ったら、誰だって逃げ出すわよ」
(まあ、恋敵に男を使って襲わせるような子だしな……)と、私は心の中で納得する。
彫刻科の建物の前を通りかかると、大きな丸太がたくさん転がっていた。
「ねぇ知ってる? そこにすごく大きな丸太があるでしょ?」
「朽ちているみたいだけど?」
沙藤さんは丸太の皮をめりめりと剥がし、
「見て」
と中を指さした。覗き込むと、丸々と太ったカブトムシの幼虫がひしめき合っている。
「彫刻科って変人が多いのかしら。ここでカブトムシの養殖をして小遣い稼ぎしてるのよね」
思わずぷっと吹き出してしまった。
「よく知ってるね」
「月島さんの後をつけたらここに来てね。彫刻科の助手と養殖の話をしたあと、バールを※借りパクしてるのを見たのよ」
(沙藤さん、何気にストーカーじゃん……)
転がっている資材を見渡しながら、ふと不安がよぎる。
「ここってバールとかチェーンソーとか、危ないものが放置されているね。管理体制をもう少し考えてほしいな」
言いかけて、ハッとした。 沙藤さんはきっと、秀青さんがバールを何に使ったのか確かめに来たのだ——たぶん。
※ 借りパク = 借りたまま返さない事




