真犯人はあなた
信州の道の駅。ずらりと並ぶお土産を前に迷っていると、隣で秀青さんが苦笑いをした。
「こういう土産ってさ、たまに意味がわからない時がある。前に北海道でバター飴を買おうか迷って裏を見たら、生産地が長野県だったことがあってさ」
「ああ、あるある。ハワイのお土産をもらったらMade in Chinaだったこと、私もある(笑」
二人で顔を見合わせて、ふふっと笑い合う。
裏書きをしっかり確認して、私たちは長野県産のリンゴケーキをカゴに入れた。
こんな他愛のない会話に、たまらなく幸せを感じる。 穏やかな余韻を胸に抱いたまま、私はいつもの日常へと戻った。
翌日。買ってきたリンゴケーキをアトリエで配っていると、安納先輩が「あれ、旅行行ったの?」と声をかけてきた。
「誰と一緒に行ったの?」
(ひぃ、探ってきた。)
「ええ、親戚の人と」
嘘は言っていない。かなり薄い繋がりではあるけれど。
「初音ちゃん、今日も遅くまでアトリエ使う?」
「私たちの課題って、家まで持って帰れないですからね」
私が少し困ったよう言うと、安納先輩は
「ほんと、時間を巻き戻せるなら日本画か油絵科を選ぶよね」
とため息をついた。
「一番過酷なのは彫刻科ですよ。あんなの、どうやったって持ち帰れないですし。ふふっ」
他愛のない、いつものアトリエの風景。 しかし、先輩の次の言葉で、その空気は一変した。
「そう言えば、秀青さんが警察の事情聴取うけてたみたいだけど、初音ちゃん、何か知らない?」
「……わからないですねぇ」
私は内心の動揺を隠して、曖昧に微笑んだ。
「そう? 初音ちゃんなら何か知ってると思ってたんだけど。例えば……何故バールが押収されたのか、とか。どんな男を殴ったのか、とか」
「…………」
私、何故、今まで気がつかなかったんだろう?
安納先輩は、今まで「秀青さん」と呼んでた。ただの生徒なら「月島さん」と名字で呼ぶはずなのに。
何故そんなに親しげに名前で呼ぶのだろう? 思い返せば、先輩が何回も機材を借りに行っていたのは、ただ彼に逢いたいからだったのではないか?
三人で機材を返却しに行ったあの日。研究室から出てきた秀青さんは、一瞬はっとしたような顔を見せた。
あれは私ではなく、安納先輩を見たから?
湖西君、則武先輩、そして安納先輩の前で、秀青さんがわざとらしく私のことを「室生さん」とよそよそしく呼んだのは、彼女を警戒してのことだったのでは?
それに、バールの件だ。 事情聴取を受けたという噂だけならまだしも、なぜ『男を殴った』ことまで知っているのだろう?
ただの器物損壊の可能性だってあるのに。
あれは強姦未遂事件だったから、警察には絶対に外部へ漏らさないよう、あんなにお願いしておいたのに——。
ドクン、ドクンと耳の奥で嫌な音が鳴っている。 心がざわめいて、私はもう、真っ直ぐに安納先輩の顔を見ることができなかった。




