暴漢
冬の夕日はつるべ落としだ。
静まり返ったアトリエで課題を仕上げていると、気がつけば残っているのは私一人になっていた。
集中が切れると同時に、不意に空腹を覚える。学生生協で買ってきたサンドイッチと自販機のカップコーヒーを机に置くと、お手洗いに行った。
アトリエに戻って軽い食事を済ませる。 「さあ、課題の続き、やっちゃおう」 パンと両頬を叩いて自分を鼓舞した、その直後だった。
――くらっ。
急にめまいがし、視界がぐるりと廻る。
(え……?)
全身から急速に力が抜け落ちていく。立っていられず、私はたまらず冷たい床に崩れ落ちた。指先ひとつ、思うように動かせない。
(私、どうしちゃったの……?)
意識が朦朧とする中、影が私を覆った。 男のようなシルエット。そいつが私の上に馬乗りになり、無遠慮な手つきで上半身の服を乱暴に捲り上げてくる。
(嫌っ! 誰か! 誰か!!)
声なき悲鳴を上げようとしたが、それどころか、男は私の口に布のようなものを詰め込み、抵抗を封じるように手首を頭上で縛り上げた。
もがきたくても、体に力が入らない。 男の荒い息遣いが耳元に迫る。ジーンズの硬い生地のせいで手間取っているようだが、それが剥ぎ取られるのは時間の問題だった。
絶望に目の前が真っ暗になった、その時。
――ゴスッ!!
男の背後から、鈍く重い音が響いた。
覆い被さっていた男がうめき声を上げ、私から転げ落ちる。そのまま慌ただしい足音を立てて、闇の中へと逃げ去っていった。
遠のく意識の淵で、ぼんやりとした視界に映ったのは、バールのような鉄の棒を握りしめた秀青さんの姿だった。
彼は血相を変えて私を抱き起こし、必死に私の名前を叫んでいる。その温もりを感じたのを最後に、私は完全に意識を失った。
***
次に目を覚ました時、私は見慣れた自室のベッドに寝かされていた。 ぼんやりする頭で耳を澄ませると、一階から声がする。
強姦未遂とはいえ、年頃の娘だけに噂を恐れて大ごとにしないでおくか、それとも警察へ届けるべきか、母と秀青さんは深刻な面持ちで話し合っていた。
(秀青さん……来てくれたんだ……)
安堵とともに、熱い涙が頬を伝い落ちる。最悪の事態から救ってくれた彼への想いで胸がいっぱいになった。
――けれど、胸の奥で疑問がわく……
どうして秀青さんは、あんなにタイミング良く『あの場所』にいたんだろう……?
そんな事を考えていたら、ふと、意識の片隅であの手紙が思い浮かんだ。




