プライドを賭けた女の闘い
プライドをかけた女の戦い
授業がすべて終わった後のアトリエ。
同級生と話していると、ふわりと甘い香りが漂ってきた。見上げると、綺麗にカールされたロングヘアに、隙のないメイクを施した女の子が立っていた。
見覚えがある。
環境設計学科の学生で、以前、秀青さんに出来ない振りをして甘えていた子だ。
「室生さん? 少し時間くれない?」
有無を言わせぬその響きに呼ばれて、私は彼女に連れられて人目のつかない場所へと移動した。
自販機で買ったカップコーヒーを奢ってもらうと、彼女の方から話を切り出してきた。
「私、環境設計の沙藤美麗って言います。月島秀青さんの事で、聞きたい事があるの」
「はい。なんでしょう?」
「彼、どうしちゃったの? あれだけ人当たりのいい人が、そっけなくなっちゃったその理由。貴女なら何か知っていると思って」
「私が聞きたいくらいです。急によそよそしくなって、距離を置かれて……」
「別れたの……よね?」
直接口に出されると、やはりぐさっとくる。
「そう……多分そうです。はっきり別れようとか言ってこなかったですけど」
「月島さんは助手の立場から自分の教え子……つまり私に手を出すのはいけないから、貴女を“ 代わりの捌け口 ”として付き合ってるんだと思ってた」
なんだ、この尋常じゃない対抗心と妄想のダイレクトアタックは。
わざわざマウントを取りに来るなんて、それだけ私を脅威に思っているのか?
それならば、私のターンだ。ドロー!
「美麗さんは秀青さんと、どこまで仲良かったんですか?」を攻撃表示で召喚。痛いところを突いてやった。
「わ、わたしは! 月島さんの生徒だから、彼が手を出したくても倫理的に何も出来なかったのよ!」
美麗さんのターン。言い訳を守備表示で召喚。
「教える側である以上、他学科の生徒にも手を出してはいけないと思うんですけどね、普通」
私のターン。追撃! そしてターンエンド。
沙藤美麗は顔を紅潮させて怒り出した。
「他学科なら、教え子の成績評価には直接関わらないから、まだ“ 個人的な恋愛 ”としてギリギリ言い訳が立つじゃない。でも私は『月島さんの学科の生徒』なのよ? バレた時の彼のリスクが全く違うわ。だからこそ彼は、安全で都合の良い他学科の貴女で妥協するしかなかったんじゃないの!?」
……どうやら、変に追い詰めてしまったようだ。
それにしても凄い屁理屈である。
私は手元の温かいコーヒーを見つめ、ポツリとこぼした。
「私も美麗さんも、結局選ばれなかった……」
その一言に、美麗さんは引きつった笑みを浮かべ、わざとらしく髪をかき上げた。
「……私は“ 選ばれなかった ”んじゃないわ。彼が私のために、必死に理性を保って距離を置いてるだけ。ただの遊びだった貴女とは違うの」
自分に言い聞かせるようなその声は、さっきまでの余裕とは違って怒りで震えていた。
秀青さんが誰に対しても疎遠になった理由を、わざわざ私に聞きにきたはずなのに、いつの間にか自分で都合の良い結論を創造している……凄い妄想力だ。
「その話、私に言うよりも秀青さんに直接聞いてみてもらえませんか? 理由は私も知りたいので、聞いたら教えて下さい。……コーヒー、ご馳走様でした」
これ以上は話が通じなさそうなので、私はさっさと話を切り上げてしまった。




