幼馴染
「そこの席、空いてる? 座ってもいい?」
学食でトレーを手にした湖西君に声をかけられた。
「あ、湖西くん。どうぞどうぞ」
彼が向かいの席に腰を下ろしながら、懐かしそうに目を細める。
「一緒に食べるの、なんだか久しぶりだね」
「そうだね。小学生の頃は、同じ班になると机を突き合わせて食べてたっけ」
「あの頃が一番無邪気で楽しかったな。……室生さんがいたからかもしれないけど」
(え? なに? いまのアプローチ……?)
不意を突かれ、胸の奥が少しだけピリッとした。
湖西君との付き合いは長い。
保育園の年少組で初めて出会い、小学校に上がってからも何度か同じクラスになった。高校こそ別々だったものの、大学でまたこうして顔を合わせるようになった。
彼は情報芸術学科の学生で、時々、秀青さんの所属する景観設計学科の方へカメラを借りにやって来る。
「室生さん、なんかカッコいい人を見つけたんだっ
て?」湖西君が探るような視線を向けてくる。
「あー……うん。でもね、付き合うとなると立場とかいろいろ障害があって。もし付き合えたとしても、周りから大反対されそうだし、すぐうまくいかなくなるかも」そこまで言って、ふとため息がでる。
「秀青さんにも振られちゃったしね……」と、自信のなさを吐露してしまう。
湖西君は鯖の味噌煮を口に運びながら、「その、新しく気になっている人ってどんな人なの?」と興味津々な様子で尋ねてきた。
「私が狙っているっていうより、いつも私を守ってくれている人……かな。ほら、私って室生家でしょ? 何か聞いたことない?」
「あー、有名だよ。室生家のシャーマンの話でしょ」
「あまり知られてないと思うんだけど、実は男性版のお役目様がいらっしゃるのよ」
「えぇ、そうなの?」
彼の瞳が、知的好奇心で輝く。
「本家の頂点に立つかもしれないような方だし、何より……一種の超能力みたいなもので、私の心の中が丸見えみたいなの。思ったことがダイレクトに伝わっちゃうから、きっとすぐ嫌われちゃうよ」
「それはどうかな」
湖西君は優しく微笑んだ。
「小さい頃から室生さんのことを知ってるけど、君くらい優しい子、見たことないよ?」
「え〜? 私、そんな親切な子だったかな?」
「親切っていうかさ。どんな人に対しても礼儀正しくて、絶対にぞんざいに扱わないだろ? 小学校のとき、特別支援学級の子がいたじゃない。いじわるされてるのを放っておけなくて、助けてあげてたじゃないか」
「あ〜、かすかに記憶にあるかな?ほとんど覚えていないけれど、どんな子だったっけ?」
「まったく抵抗しない子がいただろ? 先生の見ていないところで服の中に蜘蛛とか芋虫を入れられてもじっと耐えてるから、いじめがエスカレートしてさ。室生さん、蜘蛛を取ってあげてたよね。蜘蛛、すごく苦手なのに」
「形と色は今でも大嫌い。でも蜘蛛から攻撃してくるわけじゃないし……目をつむってつまんで捨ててたかな。あの針金みたいな触感だけはよく覚えてる」
「幼い頃の行動って、その人の本当の性質だと思うんだ」湖西君は遠い目をして続ける。
「中学生のとき、僕は陰キャだってからかわれてたけど、君は僕の絵を見て『絵が上手な人って尊敬する』って言ってくれた。心から感動してくれていたよね」
「それはだって、私より絵が上手い人なんて湖西君くらいしかいなかったもん」
「僕が芸術大学に入れたのも、あのとき室生さんに褒めてもらえたからだよ」
「まさか(笑)」
次々と褒めちぎられて、なんだかこそばゆい。
「大学に入れたのは、100%湖西君の実力だよ」
そんな会話を交わしているうちに、お互いのお皿はすっかり空になっていた。




