木枯らしと共に去りぬ
寒風が吹き抜ける冬の森林公園。水面が凍てつく池のほとりで、息を白く吐き出しながら私は彼を待っていた。
約束の時間を少し過ぎた頃、変わらない歩調で歩み寄ってきた彼が吐息とともに言葉をこぼす。
「急に呼び出してごめん。あれからちゃんと話し合ってなかったね」
「最初は釈然としなかったけど……いえ、もう良いんです」
静まり返った公園には、木々が擦れ合う音と、私たちの足音だけが寂しく響いている。 しばらくは他愛もない近況報告や、取り留めのない雑談が続いた。
けれど、彼がふと足を止め、池の対岸を見つめながら口を開いた。
「まさか湖西とは付き合ってないよな?」
なによ、今更。嫉妬なの?
「湖西君とは付き合ってないですけど……別の人とお付き合いするかも?」
本当はそんな予定なんてまったくないけれど、盛大に見栄を張ってしまった。
去っていった彼に対する、女の最後の意地だった。それに、透青さんから変態的なアプローチをされているのも紛れもない事実だし。
「ハザマのことはどう思ってる?」
「……別に普通に好きですけど? カッコ良いし」
「嫌いではないわけだ」
「私、オレ様系の強引なアプローチに弱いんですよね」
「そんな強引なアプローチをされたのか?」
「ええ。シュークリームで釣るより100倍くらい強引なことされましたね。有無を言わさない感じで触れて来ましたよ」
その瞬間、秀青さんの纏う空気がスッ変化した。
冬の冷気で麻痺した頬が熱くなるのを感じながら、女のプライドが首をもたげる。
(ふふん、ほらほら。逃した魚は大きいんだから。 後悔すればいいのに。)
しかし、私の言葉を聞いた彼は、安堵したように小さく息を吐くだけだった。
「ハザマが好きなら別にそれで良いんだ。安心したよ」
「……え?」
「話はそれだけだ。じゃあ、暗くなってきたから送るよ」
夕闇が一気に深まっていく。冷たい冬の風が吹き抜け、足元から急速に体温が奪われていくのが分かった。
(えっ? それだけ……? たったそれだけ?)
どうして急に距離を置いて去っていってしまったのか。 その理由を聞かせてくれるのだとばかり思っていたのに。
沈みゆく冬の陽射しとともに、私の中に残っていた僅かな期待も冷たく沈んでいった。




