ハザマ様
ある日、皮膚に原因不明の赤い発疹が現れた。
医師から処方されたステロイドをいくら塗っても、皮膚の奥で火がくすぶるような熱感と痒みは一向に治まらない。 入浴のたびに、掻き傷にお湯がしみて激痛が走った。
沖縄には「医者半分、ユタ半分」という言葉があるらしい。私の親戚筋でも現代医学が匙を投げたときは、本家の巫女である「お役目様」の託宣に頼るのが暗黙の決まりだった。
東本願寺を縮小したかのような、純日本風の本家の門を潜る。私はインターホン越しに声を張った。
「分家の初音です。お役目様に御目通りをお願いしたく、ご連絡差し上げました」
執事に導かれ、神棚が祀られている部屋へ通される。畳の擦れる音だけが響く静寂の中、執事が襖越しに声を落とした。
「ハザマ様、分家の初音様がお見えです」
ハザマ? 聞き覚えのない名に首をかしげながら襖をくぐる。そこにいたのは、見慣れたお役目様ではなかった。
浅葱色の袴を身につけ、巫覡の正装をして上座に正座していたのは、あの「福虫」と呼ばれていた青年だったのだ。
背筋をピンと伸ばしたその青年は、すらりとしたシルエットと非常に端正な容貌をしており、私は思わずはっと息を呑んでしまった。
「お役目様は急用にて不在です。代わりに私が視るよう、仰せつかっております」
少しの滞りもない、静謐で落ち着いた声だった。
(……福虫と呼ばれていたあの人は、ハザマという名前だったのか。というか、この人に相談して本当に大丈夫なの?)
胸の奥がざわりと波立った、まさにその瞬間。
彼は私の内心の動揺を見透かしたようにふっと口元を緩め、静かに言った。
「お役目様ほどではありませんが……一応、解りますよ」




