境界にお住まいのハザマ様
昔から好奇心が首をもたげると、どうしてもじっとしていられない。某有名刑事ドラマの警部よろしく、気になったことはずけずけと聞き出してしまう質なのだ。
「あの……ハザマ様って、周囲からは『言葉を話せない方だ』と、お聞きしていたんですけれど、普通にお話しできますよね? 現にこうして会話していますし。それと、ずっと風景を眺めていらっしゃることが多いとも伺いましたが、退屈されることはないのですか?」
「普段、人と話さないのは……私がこの身体の中にいないからだ。普段はあの世とこの世の中間に身を置いていて相談事などの仕事が入った時だけ、こうして身体に戻ってくる。だから、退屈と感じないんだ」
落ち着いた声で、ハザマ様は続ける。
「君も時間がある時、インターネットで色々な情報を検索するだろう? あの世もそれと同じで、多様な情報を収集したり、外の世界を探索したりできる。あの世の仕組みはネット空間と酷似していてね。むしろインターネットこそが、あの世の仕組みを模して作られた雛型なんじゃないかとすら思えてくるよ」
そんな不思議で興味深い対話は、気付けば二時間近くにも及んでいた。
ほかにも、霊視の最中にハザマ様が相談者の顔を見ず、なぜか斜め右上ばかりを視ている理由も明かしてくれた。なんでも霊的世界への『関所』が右脳にあり、右脳というスクリーンに原因や解決策が映像として映し出されているらしい。
知的好奇心をくすぐられる話の連続に、最後まで全く飽きることがなかった。秀青さんと一緒にいる時とはまた一味違う、心地よい時間だった。
辞去の際にお礼を伝え、「必ず秀青さんにお手紙をお渡ししますね」と約束を交わす。
「あぁ、よろしく頼むよ。消えずに形として残る『手紙』でなくてはダメなんだ」
屋敷の門まで執事の惟光さんに案内されていると、彼はどこか驚いたような表情で話しかけてきた。
「あの方が、これほど長くお話しになられるのは極めて珍しいことでございます」
「えっ、そうなんですか?」
「ええ。普段の相談事でしたら要点のみを簡潔にお伝えになり、わずか10分ほどで終わらせてしまわれますから」
ほえ〜そんなに貴重な時間だったとは。
親戚のよしみで無料で診てもらっていたけれど、二時間分の延長料金をお支払いするべきだったか……などと頭をよぎる。
私は惟光さんに深くお礼を言い、屋敷を後にした。




