第12話 新たな土地で、2人きりで
※申し訳程度のスケベな場面があります。期待を大幅に下回る、本当に申し訳程度です。ご注意ください。苦手な方は飛ばしてしまっても大丈夫です。良助の家に到着しただけの回です。
新幹線に揺られて、6時間かけて移動した。
乗り継ぎが何度もあった。
初めての新幹線は普通列車みたいに揺れない。それでいてトンネルも多くて、景色もどんどん変わっていく。良助は駅弁を食べていたが、淡雪はそれどころじゃない。新幹線の移動速度に圧倒され、乗り換えの駅の人数の多さに圧倒され、良助の地元に着くころには精神的にクタクタになっていた。
良助の地元は、とても田舎。田んぼがあって、バスはあまり通ってない。街灯がなくて、空がすごく広く感じる。多分大きな建物がないからだろう。淡雪が育った観光地は、田んぼが全くなくて旅館やホテルがいっぱい立ち並んでいた。企業の建物もほとんどない。景観を損ねる為、大きな企業は周辺の市に散って拠点を置いている。良助が住んでいるここは、工場が田んぼの間にドンと大きく建っていた。
初めての引っ越し先は、今まで見たことがないような田舎だったということになる。
駅でタクシーを拾い、良助が住んでいたアパートに向かった。
「電気とか水道とかは、もう連絡してるから大丈夫。なんもない田舎でびっくりした?」
冬なので、田んぼは休耕中の箇所がまばらにある。小麦や大豆を二毛作で植えている場所は、結構草が青々と茂る。でも休耕中の田んぼは、収穫後の枯草だとか盛り上がったまま放置された土が目立つ。
「こんな広い田んぼ、初めて見たかも……」
タクシーの外に広がる風景は、テレビの向こうで見たことがある世界。本当にこういう場所が実在していたのかと、淡雪の心は踊った。
3か月ぶりのアパート。
ここを出る前は、2年前の離婚が脳裏をかすめることもあった。吹っ切れてたとしても、忘れるわけではない。またここに戻ってくるのがちょっと憂鬱だとさえ思った。でも今は違う。
「ここが良助さんのアパート?」
空は既に暗くなっているため、淡雪がどんな顔をしているかよくわからないのが悔やまれる。多分握った手の先で、アパートを見上げてるんだろう。
「そう。前も話したけど、結婚してたときもここに住んでた。元嫁さんはもうここに来ることはないし、相手の持ち物も引き渡して、残ってたものも全部断捨離済み。だからその、なんていうか……」
気にしないで。っていうのは、なんか違う気がする。離婚したことはなかったことに出来ないし、でもそればかり気にされても困るし、いい言葉が出てこないままドアの鍵を開けた。
「気にかけてくれたん? 良助さんは今日も優しいな。ありがとう」
鍵を開ける良助の耳元に口を寄せる為、淡雪は良助の肩に手をかけ、つま先立ちをして少し背伸びをし、良助にささやく。
不覚にも、良助はものすごくドキッとした。
アパートは築10年ちょっとで、まだすごくきれいな状態。元々ものは少なかったしに、向こうでまとめた荷物の運び入れも終わっていた。
買い物に行かなきゃいけない。食材がないし、飲み物だってない。妹の家に預けている車を取りに行って、それで淡雪のこともそのときちょっと話して。
やることなんて山のようにある。
ドアを開けて、家に入って。ドアを閉めたら、我慢なんてできなかった。お互いに、頭のネジが飛んだみたいな、我慢の糸がプツッと切れたような感じだった。家の中に入ればいいのに、狭い玄関で靴も脱がずに深いキスをして。相手の荒い息遣いに興奮する。
もうなにもしがらみがない。そう思うと、我慢なんかできなかった。
良助は男を抱いたことがない。でも、今淡雪を抱きたくて仕方がない。女にもここまで欲情したことなんかなかったのに、自分は一体どうしてしまったのかと、恐怖のような興奮が背筋を走る。壁に背中を預け、ズルズルとしゃがみこんだ淡雪。息は上がり、口の端からヨダレが垂れ、ツーっと一筋糸を引いて落ちて行った。
やんわり開いた口。とろんとした目。「良助さん」と、自分の名前を何度も呼ぶ艶めいた声。
中年になって、初めて交際相手を犯したいと思った。体を交えたいのではない。犯したい。泣かせて、どこにも行かないようにドロドロにして、自分以外の誰かなんかに一瞬たりとも心奪わせたくない。
これが独占欲なのか。そんなものは、今どうでもいい。
唇を自分の口で塞いで、甘い声が漏れるのを聞いて首筋にキスをして。セーターの中に手を滑る込ませると、ビクッと淡雪の体が震える。手が冷たかったのかもしれない。息と体温が上がってるから忘れていたが、世間は冬なのだ。玄関だって十分寒い。このまま脱がせたら寒いかもしれないなんて、野暮かもしれないけど思ってしまった。
散々体に触れて、首筋にも耳にもキスしまくって、トロトロにしておいて。良助が一度淡雪の体から手を離した。
「ごめん……、ベッド行こうか」
いくらなんでも、玄関でおっぴろげるわけにはいかない。だって玄関でこんなことやってしまうと、ふとしたときに思い出してしまうじゃないか。
「嫌。もう意地悪せんで」
淡雪は二十歳なのだ。まだ若く、かわいくて、儚くて。それでいて、欲だって年齢相応にある。元々、毎日のように抱いた抱かれたと転々としながら、お金を得ていたのだ。良助と出会い、惚れ、大切にされておおよそ3か月。禁欲期間は長かった。ベッドに行く時間が惜しい。全部はち切れてしまいそうになっている。
「良助さん」
両手を伸ばして彼を呼ぶ。欲が全面に出たオスの顔をした良助がこっちに来た。胸が高鳴る。触れられてないのに、息が上がる。
「ここで抱いて」
自分の元に来た良助の耳元でささやいた声は、ゾクゾクするほど色目かしい声だった。
人間は、三大欲求には抗えない。
左右の住人は年末年始で帰省していたのだろう。人がいなかったことに心から感謝するばかり。おかげで淡雪は堪えることなく気持ちよく声を上げてくれたし、それを聞いてとんでもなく欲情した。3回戦まで立て続けにしたのは人生初めてだった。
ことが済んだあと、廊下と玄関のいたる場所に、どちらのものかわからない体液がべったりついていて、抱き潰し手前までなかせた淡雪の顔も体も最高にエッチだった。
大事なことなのでもう一度言いたい。最高に、エッチだった……!! エッチなお姉さんよりエッチだった。
存分に抱かれてくったりした淡雪を抱きかかえて、一旦リビングへ。エアコンを入れて、淡雪をソファに寝かせて、諸々のアレをティッシュで拭いて毛布をかぶせた。
「片付け……、一緒に行く」
まだ目がとろんとしたままの淡雪が、ゆっくり身体を起こした。
「いいから寝てて」
良助は淡雪に背を向けて自分の体についたものを適当にティッシュで拭き取り、声を飛ばして歩いて行こうと一歩踏み出す。
「一緒に行きます」
背中から抱き着いてきた淡雪の腕は、相変わらずか細い。もっと太らせなければならないが、それよりもなのだ。腕を見ただけでムラムラしてくる。どうしてしまったのか、欲の収まりが大変よろしくない。
「ダメ。一緒に来たらその……、また抱いちゃうから……!」
なにいってんだよ中年と、恥ずかしくなってしまうようなことを言わざるを得ない。事実なので隠しても仕方ないだろう。
「嬉しいな。好きなだけぐちゃぐちゃにして」
逮捕。お巡りさん、この子です。俺の後ろに居るこの子ですよ! けしからん。なんてことなんだ。振り返ったら絶対また抱いてしまう。なんて節操のないおじさんなんだ。そもそも俺は淡雪より22歳も年上なんだよ。なんて頭の中でいろいろぐるぐる言い訳をしつつ、脇腹と腕の間からちらっと淡雪を覗いてみると、ちゃんと仕上がった艶やかさを保ったままこちらを見上げていた。
――あ˝ぁぁあ˝~……もうダメだってばあぁぁ……
良助は、目の上に手を当てて天を仰ぐ。人生のご褒美なのかもしれない。息子も無事秒速復帰してくれて、淡雪を大事にしたい気持ちと抱きたいからだがせめぎ合い。
適当に玄関掃除だけ済ませて、ベッドに行きつかないままソファでも致してしまって、動物より動物じゃないかと自分でも呆れるほど淡雪を抱き倒した。
禁欲もほどほどにしないとよくないという教訓になった。
年末。家の掃除をして荷ほどきも終わらせ、手元に届いた淡雪の車で買い物へ。自分の車を取りに行かなきゃと思うも、めんどくさいし淡雪と離れたくないしと、おっさんと乙女がまじりあったような感情のまま、結局車は預けっぱなしになっていた。
年の瀬に妹からラインが入り、年明けに車を取に行くと返信。置きっぱなしになっているので、いい加減邪魔になった模様。そりゃそうだ。車は場所を取る。
「年始に妹の所に車取りに行ってくるから、淡雪はうちで待ってて」
良助に言われ、淡雪は少し考える。
「どうやって妹さんとこまで行くん?」
たしか以前、妹の家は隣の市で駅も遠いと良助が話していた気がする。
淡雪のそれを聞き、そういえば移動手段を考えてなかったことに気づいた。2人で目を合わせてぽかんとなり、良助が笑いをこぼす。
「幸せボケしてて考えてなかった。タクシーで行ってくるよ」
妹に淡雪のことを話さなければならない。いきなり会わせるわけにはいかないので、話しを詰めて大丈夫そうだったら会う日取りを決める。一応バツイチなので、同棲相手が男というと妹だって驚くだろう。
「近くに車停めるところがあるなら送るよ。スーパーとかがあるなら、買い物しとけば一緒におれる時間長くなるし」
少しでも長く一緒に居たい。今だけなのかもしれないけど、絶対これが1秒でも長く続くようにしたい。それに、淡雪の気持ちを無碍にしたくない。本音を言えば、良助は淡雪と1秒たりとも離れたくないくらいの激重な愛情を抱えている。おじさんをなめるんじゃない。絶対一生一緒に居る。
「大きいスーパーがあるから、そこで待っててもらおうかな」
「了解。晩ごはんの買い物しながら時間潰す」
幸せだなと、純粋に感じる。とめどない幸福が、ずっと湧き続けるこの感覚。この感覚に、言葉があるのだろうか。
バツイチだからこそ、今の幸せが奇跡だと思う良助。
不遇な状況下で育ったからこそ、この一瞬の幸せを世界で一番大事にしたい淡雪。
新たの土地で、2人きりで。
その年の最後を過ごし、新たな年明けを迎えた。
ようやく始まった2人での生活。年明け良助は車を取に妹の家へ。良助を待つ間、大型スーパーで淡雪が遭遇した人物とは……。
評価などいただけると嬉しいです。
活動報告に解説や裏話みたいなものを少し書いてます。




