85. 暗き森の襲撃者と、過保護な公爵騎士団
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!
約二十日間ほど更新がストップしてしまい、本当にすみませんでした。
リアルの方が忙しい時期に突入してしまいまして、これからもしばらく不定期な投稿ペースになりそうです。
時間はかかっても続きはしっかり書いていきますので、のんびりとお待ちいただけると嬉しいです!
引き続き、本作をよろしくお願いいたします!
王都を出発して数日。俺たちの旅は、想像以上に賑やかなものになっていた。
「レンジ様! あちらの景色、とっても綺麗ですね!」
「ああ、本当だな。王都の近くとは生えてる木の種類からして全然違うみたいだ」
助手席……ではなく、運転席と助手席の間のスペースに身を乗り出してくるセリアに、俺はいつもの調子で気楽に相槌を打つ。彼女は早々に公爵家の豪華な馬車を抜け出し、俺の『銀の箱舟』に入り浸っていた。
当然、助手席を陣取る定位置のクオンは不満げだ。
「(……おいレンジ。この小娘、いつまで我の特等席の近くをウロチョロしているつもりだ)」
「(まあまあ。公爵の馬車よりこっちの方が珍しくて楽しいんだろ。我慢してやってくれ)」
クオンを念話でなだめつつ、バックミラーをチラリと見る。
後続の馬車からは、ギリアム公爵が窓から身を乗り出し、血走った目でこちらを睨みつけていた。愛娘が平民の車に入り浸っているのが気が気でないらしい。
「お嬢様、そろそろ公爵閣下の堪忍袋の緒が切れそうですが」
後部座席で優雅に紅茶を淹れていたイケオジ姿のヴォルガラが、苦笑交じりに告げる。
「平気よ。お父様はただの心配性なんだから」
セリアがのんきに笑う足元では、ルナやエメ、そして新入りのコスモがじゃれ合っている。
「きゃあ! コスモ様、ダメですよ、スカートを引っ張っちゃ!」
『フン! 勘違いするな小娘! 我は決して遊んでいるわけではない! このヒラヒラした布が我の気に障っただけだ! 我の機嫌を損ねれば、貴様ごと宇宙の塵に――』
脳内に響く恐ろしい脅し文句とは裏腹に、フワフワなポメラニアンのような見た目のコスモは、千切れんばかりに尻尾を振ってセリアに甘えている。だがその毛並みは、まるで銀河そのものを身にまとっているかのような、遠近感が掴めない不思議な色をしていた。
この愛らしくも神秘的な生き物が、古文書には『星喰らい』という物騒な通り名で記されている邪神だとは、誰も信じないだろう。
邪神としての威厳はどこへやら、コスモはルナやエメに負けじとわちゃわちゃと遊んでおり、車内はすっかり和やかな雰囲気だった。
だが、そんなのどかな旅路も、ある境界線を越えたところで空気が一変した。
王都と大陸の最果てを繋ぐ街道の難所、『暗き森』である。
昼間だというのに、鬱蒼と生い茂る木々に陽の光が遮られ、辺りは薄暗い。空気はジメジメとしており、どこからか魔獣の遠吠えが聞こえてくる。
「……嫌な空気だな」
「ええ。この森は昔から質の悪い盗賊や、凶暴な魔獣が棲み着くことで有名ですから。お気をつけください、レンジ様」
ヴォルガラがティーカップを置き、わずかに目を細めた。
その直後だった。
ドサァァァッ!!
突如、街道の先にある大木が切り倒され、俺たちの行く手を完全に塞いだ。
急ブレーキを踏んで車を止める。後続の公爵家の馬車も、騎士たちの怒号と共に慌てて停止した。
「……待ち伏せか」
森の暗がりから、ぞろぞろと柄の悪い男たちが姿を現す。数は二十人ほど。全員が薄汚れた革鎧を身につけ、物騒な剣や斧を構えていた。
その先頭に立つ、眼帯をした大柄な男が下品な笑い声を上げる。
「ヒャッハー! そこの変な鉄の馬車に乗ってる平民だな! お前は、たっぷりと可愛がってやるように依頼主から特別に金をもらって……」
盗賊の頭目が言い終わるより早く。
「貴様らァァァ!! 我が愛しの娘に何をする気だァァァ!!」
後方から、激怒したギリアム公爵の咆哮が森に響き渡った。
見れば、公爵家の精鋭騎士団数十名が、すでに剣を抜き放ち、一糸乱れぬ動きで盗賊たちを完全包囲している。その瞳は完全に血走っており、日頃のストレスを発散せんばかりの凄まじい殺気を放っていた。
「えっ? は?」
盗賊たちがポカンと口を開ける。
彼らは依頼主であるマルコから、「ターゲットは生意気な平民のトリマーとそのペットだけだ」とでも吹き込まれていたのだろう。
まさか、ターゲットのすぐ後ろに、国家最高戦力である公爵家の精鋭騎士団(しかも護衛対象の娘に近づく虫を排除したくてウズウズしている過保護な父親付き)が控えているとは夢にも思わなかったに違いない。
「な、なんだこいつら!? ただの平民じゃねえのかよ!」
「ひぃぃっ! こ、公爵家の紋章だぁぁっ!」
パニックに陥る盗賊たち。
だが、彼らの不幸はそれだけでは終わらなかった。
「(……ふん。我の昼寝の邪魔をした罪は重いぞ、下郎ども)」
助手席の窓からひらりと飛び降りたクオンが、黄金の毛並みを揺らしながら静かに威圧感を放つ。
極めつけは、車から優雅に降り立ったイケオジ執事のヴォルガラだ。
「レンジ様の旅路を阻む障害は、この私が排除いたしましょう」
古代竜である彼の瞳が、スッと縦に割れる。ただの執事とは思えない、底知れぬ魔力の波動が周囲の木々を激しく揺らした。
前方に伝説の魔獣と古代竜。
後方に血走った目の公爵騎士団。
「あ、あ、あああ……」
完全に詰みである。
盗賊の頭目は武器を取り落とし、ガクガクと膝を震わせた。
「……で、依頼主ってのは誰なんだ?」
俺が運転席から顔を出し、呆れ半分で尋ねると、頭目は涙と鼻水を流しながら即答した。
「ま、マルコって名前の金髪の貴族ですぅぅ! あいつが『生意気な平民を痛い目に遭わせろ』って! 俺たちはただ金に釣られただけでぇぇ!」
あっさりゲロった。
やはりあのプードル飼いのマルコか。自分の手を汚さずに盗賊を雇うあたり、本当にセコい奴だ。
「よォォしお前ら! その薄汚いネズミどもを一人残らず引っ捕らえろ! 我が公爵家の名において、地下牢にぶち込んでくれるわ!」
公爵の号令と共に、哀れな盗賊たちは一方的に蹂躙(というか制圧)され、あっという間に縛り上げられてしまった。
マルコが仕掛けた卑劣な罠は、過保護な公爵家と最強のもふもふ達の前に、開始わずか三分で完全に粉砕されたのだった。
「……まあ、誰も怪我しなくてよかったな」
俺はため息をつきつつ、再び『銀の箱舟』のエンジンをかけた。
ちょっとした足止めを食らったが、俺たちの旅はまだまだ続く。目指すは大陸の果て、伝説の神獣が待つ巨大な森だ。
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