84. 国王の涙目と、禁書庫
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!
大変心苦しいのですが、現在私生活の方が忙しく、しばらくの間は更新が不定期になりそうです。
落ち着き次第ペースを戻していきたいと思っていますので、どうか気長にお付き合いいただけますと幸いです。
引き続きよろしくお願いいたします!
俺としては、定住を強いられる貴族の義務など真っ平ごめんだ。俺はただのトリマーとして、自由な旅を続けたいのである。
「し、しかしだな……!」
重苦しい静寂を破ったのは、半ば涙目になった国王だった。玉座から身を乗り出し、凄まじい勢いで懇願してくる。
「これほどの国家の恩人に何も報いねば、他国に対して王家の威信が丸潰れになってしまう! 頼む、せめてこの『救国勲章』と、報奨金である白金貨五十枚だけは受け取ってくれ!」
俺の魔法鞄にはすでに白金貨九十九枚(およそ九十九億円相当)もの資金が入っており、お金には全く困っていないのだが、これ以上断ると一国の王が本当に泣き出しそうだった。
「……わかりました。こちらの勲章と報奨金は、ありがたく頂戴いたします」
俺が渋々受け取ると、国王をはじめ、ギリアム公爵や周囲の重鎮たちが心の底から安堵の息を吐き出した。
「おお! 受け取ってくれるか! だが、やはりそれだけでは国家を救った功績に対してあまりにも不釣り合いだ。領地が不要というのなら、他に何か望みはないか? 何でも言ってみるがよい!」
何でも、と言われて俺は少し考え込んだ。
資金は十分。関所を顔パスできるような通行証も、いざとなればヴォルガラに乗って空を飛べばいいので特に必要ない。
「俺はただ、世界中の珍しい動物や、まだ見ぬ魔獣の毛並みを整える旅が続けられればそれで……」
「ふむ。珍しい魔獣、か……。ならばレンジ殿、王城の奥深くにある『王立図書館の禁書庫』への立ち入りを特別に許可しようではないか」
「禁書庫、ですか?」
「うむ。あそこには民間には出回っていない、古代の神獣や未確認魔獣の生息地に関する極秘文献が数多く眠っている。そなたの旅の目的地を探すのに、大いに役立つはずだ」
国王の思わぬ提案に、俺はパッと顔を輝かせた。
「なっ……!? 陛下、いくら恩人とはいえ王家秘伝の禁書庫に平民を……!」
周囲の貴族たちが慌てて止めようとするが、国王はそれをピシャリと手で制した。
「これほどの欲のない恩人に、それくらい報いねば王家の名折れというもの。どうだ、レンジ殿?」
「……! それは、めちゃくちゃありがたいです! 喜んでお受けします!」
こうして俺は、面倒な貴族のしがらみを完全に回避しつつ、王家の極秘資料という最高のお宝(情報)にアクセスする権利をゲットしたのだった。
◇
謁見を終えたその足で、俺はさっそく案内された王立図書館の最深部、厳重な魔法の鍵がかけられた禁書庫へと足を踏み入れていた。
カビの匂いと古い羊皮紙の香りが漂う薄暗い空間に、天井まで届く本棚がズラリと並んでいる。
「これはすごいな……。おっ、この『幻獣生態学・第三巻』なんて、表紙からして面白そうだ」
俺がワクワクしながら本を手に取ろうとすると、俺の背後に控えていたイケオジ姿のヴォルガラが、すっと一枚の古ぼけた地図を差し出してきた。
「レンジ様。お探しのものならば、こちらの文献がよろしいかと。古代竜である私の記憶と照らし合わせても、最も信憑性の高い記述がございます」
さすがは完璧な執事(ロールプレイ中)。仕事が早すぎる。
受け取った文献には、大陸の果て、巨大な森の奥深くに位置する『精霊の霊峰』についての記述があった。
「精霊の霊峰……かつて誰も触れたことのない伝説の神獣が眠る場所……」
文章を読み進めるうち、俺の全身の血が激しく騒ぎ出した。
『――その神獣は、絹のように滑らかで、雲のように柔らかい白銀の毛皮を持つと言われている』
それだ。
俺のトリマーとしての本能が、激しくアラートを鳴らしている。
そんな極上の毛並み、絶対にこの手でブラッシングして、最高のシャンプーで泡立ててやりたい。
「(……ふん。白銀の毛皮を持つ伝説の神獣、か。どうせまた、放っておけないのだろう?)」
肩の上のクオンが、文献を覗き込みながら、どこか楽しげな念話を送ってくる。黄金の尻尾がパタパタと俺の背中を叩いた。
「(ああ。トリマーの血が騒ぐんだ。どうしてもこの手で手入れしてやりたくてさ)」
「(お前のその職人魂には呆れるが……まあ、付き合ってやろう。だが、我の毎日のブラッシングは絶対に手を抜くなよ?)」
「(もちろんだ。約束するよ)」
クオンの機嫌をとりつつ、俺は次の目的地をしっかりと地図に刻み込んだ。
大陸の果てにある巨大な森。その奥に待つ伝説の神獣の毛並み、絶対に整えてやるからな。
◇
謁見と調べ物を終えた俺は、王城の門前で愛車『銀の箱舟』のエンジンをかけていた。
さあ、いよいよ大陸の果てに向けて出発だ、と思ったその時。
「レンジ様ー!」
声のした方を振り返ると、そこにはなぜか完全な旅行用のドレスに身を包んだセリアと、その後ろにズラリと並ぶギリアム公爵家の馬車、そして完全武装の護衛騎士たちの姿があった。公爵夫妻もちゃっかり一番豪華な馬車から顔を出している。
「お嬢様? それに公爵様まで……いったいその大荷物と大所帯はどうしたんですか?」
「ふっふっふ。実は我々公爵家も、急遽その大森林の方面にある辺境の領地へ視察に向かうことになってな! 道中、しばらくの間レンジ殿の『銀の箱舟』に同行させてもらうぞ!」
ギリアム公爵が、やけに爽やかな笑顔で親指を立てる。
絶対嘘だ。ついこの間、セリアと王都の夜をデートして回った時、建物の陰でギリアム公爵がギリギリとハンカチを噛みちぎりながらこちらを監視していたのを、俺はしっかり気付いていた。
視察というのは建前で、間違いなく「俺と娘が仲良くしすぎないように監視するため」についてきたに違いない。
「レンジ様たちと一緒に旅ができるなんて、夢のようです!」
目を輝かせてキャンピングカーに近づいてくるセリア。
「あはは……まあ、道が同じなら別にいいですけど。王都に来る道中も相当賑やかでしたし、またあんな感じの旅になりそうですね」
セリアたちと連れ立って王都を目指した、あの騒がしくも楽しかった日々を思い出し、俺は自然と頬を緩ませながらアクセルを踏み込んだ。
助手席には定位置であるクオンが丸まり、後部座席ではイケオジ姿のヴォルガラが優雅に紅茶を淹れている。足元にはコスモやチビたちがわちゃわちゃと集まり、そして後ろには、やたらと豪華な公爵家御一行の馬車列を引き連れて。
新たなもふもふを求める大陸の最果てへの旅が、今、賑やかに幕を開けた。
……一方その頃。
王城から連なって出発していく彼らの姿を、暗い路地裏から憎悪に満ちた瞳で見つめる影が一つ。
「くくく……。公爵家が同行していようと関係ない……。あの平民め、道中の『暗き森』で必ずや地獄を見せてやる……!」
薄暗い路地裏に、歪んだ笑い声だけが不気味に響いていた。
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