第十章『破壊の天使』 - Ⅳ
クレインと出会って、共に生活して、ミオリやヒメノ、ホノカと出会い、今の僕がいる。
執行兵に関わらなければ平々凡々に終わっていたかもしれない僕の生活は、刺激的なものに変わっていった。それだけは、認めなければいけない。
「そうだね。僕は物好きだ。普通の人間だったら、ヒドゥンとか執行兵とか、まず信じてすらもらえないだろうね」
「それをあなたが言うの? ふふっ、タカトらしいわね。もちろん、だからこそ私たちの秘密を知った人間に対しては記憶を操作するなり、殺すなり、何かしらの対策を講じないといけないの。でも、私はそれをしなかった。もし私が元の世界に戻ったら、罰を受けることは必至でしょうね。今では、あなたを殺さなくてよかったと心から思えるけれど」
考えてみると、僕はクレインに殺されてもおかしくない存在だった。このヒドゥンの弱点を見ることができる瞳がなければ、恐らく僕の命はなかった。こんな状況で、僕の命があるなんて信じられない。けれど、今ならば。目の前の少女を、可能な限りサポートしていきたいという自分が確かにいる。
「僕がいなかったら、雨風を凌ぐことも同期に出会うこともなかったと思うよ」
「そうね。突然人間の世界に放り出されて、孤独な戦いを強いられたのでしょうね。だから、本当にあなたと出会えてよかった。ねえ、タカト。ひとつだけ、私の願いを聞いてくれるかしら」
唐突に告げられた言葉。当然、僕には拒否する選択肢などはない。彼女の「願い」の内容が分からないが、ほとんど反射的に僕は頷いていた。
「うん、どうしたの?」
僕の返答を聞いてから、彼女は自身の右腕の腕輪を見せる。月明かりに呼応して輝く腕輪、ファロト。この武器が展開されるかどうか、僕たちの運命はそれに賭けられている。
「もし、ファロトが展開できなかったら。私の思いが、お姉ちゃんに通じなかったら、そのときは――」
クレインの瞳が、微かに残った涙で光った。
「――私と一緒に、死んでくれる?」
クレインの言葉は、真っ直ぐに僕の心へ響く。
アミナの前に躍り出て、クレインが最後の力を振り絞りファロトの展開を図るも、結局武器は現れずに僕たちは仲良く刻まれて終わり。
想像したくはないが、その場面が鮮明にイメージできてしまうのが恐ろしい。
正直なところ、死ぬのは怖い。今まで何度も命の危機に瀕してきたが、側にいてくれたクレインたちのお陰で何とか命を繋いだ。ただ、今回はどうだろう。冗談ではなく、本当に死んでしまうかも知れない。
それはきっと、クレインも一緒だ。ミオリとヒメノが力尽きる場面を間近で見て、自分もいつああなってしまうか分からない恐怖が先行したはずだ。そして、あまつさえ自分の武器を破壊され、最後の望みであったササコ先輩でさえも敵わない瞬間を見せつけられた。
僕がクレインの立場だったら、高校から一目散に逃げだしているだろうか。それとも、ヤケクソになってアミナに斬り殺されているだろうか。実際に武器を手にしていない僕は、彼女の感情は理解できない。
それでも、彼女は訪れるかもしれない今際の際を過ごす相手に、僕を選んだ。ホノカでも、ササコ先輩でもなく、僕を。もし仮に自分が見知らぬ誰かやそれほど親しくない人から同じことを言われれば、首を横に振ってしまうかもしれない。ただ、相手がクレインだったのなら。僕は、応えなければ。クレインも、相応の勇気を持って僕に弱みを見せた。ならば、僕も。彼女に対して弱みを見せなければいけない。そもそも、僕らは彼女たちと比べれば弱い存在だ。彼女にとってはプライドに傷がつく結果になるかもしれないが、それでも。




