第十章『破壊の天使』 - Ⅱ
アミナに反応して後を追うようにクレインを牽引していたファロト。目の前の敵を倒すため、武器への変化を念じたクレイン。その願いが通じることはなかった。ファロトはアマトのように、ヴァリアヴル・ウェポン特有の光を放つことはなく、当然武器に変わることもない。しんとした静寂が、図書室を支配した。ヒドラを構えたままのアミナも、滑稽そうにクレインを嘲笑う。
「っは、散々調子に乗っておいてこのザマか? 馬鹿だな、ヴァリアヴル・ウェポンはひとりにひとつだけの武器。お前がルーシャの武器を使えるはずねえだろ!」
「そんな……っ! ファロト、応えなさい! ファロトッ!」
みるみるうちに絶望の色へと染まっていくクレインの顔。確かに「武器を失った状態、それも血縁者ならば武器も応えてくれるかもしれない」というササコ先輩の言葉は、あくまでも希望的観測に過ぎない。だからといって、こんなにも報われないものだろうか?
クレインの危機は、同時に僕の危機でもある。こんなときに何もできない僕でいたくなかった。でも、相手はヒドゥンではない。アミナの弱点を見切ることもできないし、それができたところで攻撃する手段がない。
「くくくッ、ササコもササコで愚かな女だよな。あいつがお前に託しただろうアタシの討伐は絶対に成し遂げられない。大人しく逃げてれば多少は生き延びられたのかもしれねえのに、その可能性すら潰しちまうなんてなぁ!」
こちらが武器を使えないのは、アミナにとっては絶好の機会だ。ヒドラの柄を掴み直したアミナは、こちらへ向け突進する。武器も、防ぐ手段もない。クレインはファロトが反応しない事実を上手く飲み込めず、身体を震わせている……このままでは、僕もクレインも殺される。アミナの動きが、スローモーションのように流れる。死を目前にして、クレインとの出会いやこれまでの戦いの場面が、一枚一枚の映像となって映し出される。これが、走馬灯というやつなのだろうか。
後は凶刃に倒れるしかないと理解してはいながらも、僕にはまだ諦めきれない理由があった。クレインを守りたい。クレインと一緒に、アミナを倒したい。気づけば、近くにあった木製の椅子を手に取っていた。武器は使えなくても、その場しのぎにはなる。
「アミナっ!」
真っ直ぐに突進してくるアミナに対し、僕は渾身の力で椅子を放り投げた。
「ぐッ、なんだとっ!?」
突然の出来事だ、アミナが驚愕するのも無理はない。今まで無抵抗の窮鼠だった人間が、牙を剥いたのだから。椅子は運よくアミナの目前へと迫るも、彼女の大剣により一刀両断されてしまう。その隙に、僕は呆然と立ち尽くすクレインの手を取って、図書室からの脱出を図った。
「待ちやがれッ!」
重い木の扉を押し退けるように開くと、アミナも僕たちと同じように図書室から出ようとする。が、近くに散乱した木の破片により上手く動けない様子だ。自ら生み出した好機の瞬間。緊張と恐怖で声が出ないほどだった。そこで、クレインもハッと我に返る。
「タカト……?」
「今は走るよ、クレイン!」
図書室を出てすぐ右側の階段を昇るか降りるか迷って、僕は上へと逃げる道を選択した。
後方からは早くも怒りに身を任せたアミナが声を張り上げていた。
「殺す、殺す殺す殺すッ! 絶対に殺す……お前ら全員、殺してやるッ!」
でも、恐れおののいている時間はない。幸い、校舎の中に関しては僕たちの方が地の利がある。アミナに追い付かれないことだけを願い、僕とクレインは上階を目指して走った。




