第九章『背信の刃』 ‐ Ⅹ
先輩の手に乗せられた腕輪。見て、触れて、間違いないと確認するクレイン。
「お姉ちゃんの、武器……でも、ヴァリアヴル・ウェポンはひとつしか所持できないはずでしょう?」
「そうです。各々、個人に合ったこの世にひとつだけの武器。ですが、このファロトの所持者であるルーシャはこの世を去り、同時にクレインさんのアマトも破壊されています。何より血縁者ならば、武器も応えてくれると思うんです。私の勝手な憶測ですけどね」
そこまで話し終えて、先輩は教室の床へと腰を下ろす。ホノカに背を支えられながら、再び口元へ笑みを浮かべた。
「クレインさん。どうかルーシャの仇を、そのファロトで討ってください。あなたならば、必ず勝てます」
「ええ、もちろんそのつもりよ。でも、不思議ね。いつだったか見た夢で、お姉ちゃんが誰かと戦っていた……もしかすると、あれがアミナだったのかもしれないわ」
夢と聞いて、思い出す。夏休み直前の日、僕も、誰かと誰かが戦う夢を見た。もうその内容はほとんど思い出せないが、あのふたりはアミナとルーシャさんだったのだろうか。そして、僕とクレインは、同じ夢を見ていたのだろうか。
その答えは、ササコ先輩が教えてくれた。
「ふふ、何の因果でしょうね。確かに私はヒドゥンを狩る段階でタカトくんの家の近くまで来ることもありました。そのときもファロトを肌身離さず持っていたので、クレインさんが見たのはファロトが見せた夢なのかもしれません。タカトくんも、心当たりがありそうな顔をしていますね?」
「そうです。僕も、知らないふたりが戦っている夢を見ました。クレインと同じ夢、だったんですね」
「やはり、アミナを倒すのはあなたたちの役目みたいですね。タカトくん、クレインさんをお願いします。もしヒドゥンが現れたら、あなたの力が必要です。彼女のサポート、してあげてください」
ヒメノにも同じように言われた。もちろん、僕は付いていくつもりだ。ルーシャさんの形見であるファロトが、どうして僕にもクレインと同じ夢を見せたのかは分からない。ただ、僕にはクレインとアミナの戦いを見届ける義務がある。そう、感じていた。
「分かりました。ホノカ、先輩を頼んだよ」
「ああ。ふたりとも、くれぐれも気を付けろ。必ず生きて戻って来い」
ホノカの力の籠った言葉と視線。僕とクレインは、ほとんど同時に頷きを返す。
「タカト、行くわよ。殺されたりしたら承知しないんだから」
クレインはそのしなやかな指を、僕の腕に絡める。こんな状況にも関わらず、反射的に心臓が跳ねてしまう。
「うん、分かった」
自らの声で、これからアミナと対峙する不安や自分が殺されるかもしれない恐れを打ち消すように。僕は、クレインと共に教室を飛び出した。




