【 SIDE:CHIYO 】 第4話 Restart
「ん……んんっ……」
いつの間にか、眠ってしまっていたみたいだった。
少し痛む頭。
ぼんやりとした視界。
身体が、宙に浮いているような感覚。
しっかりと、あたたかい何かに支えられていた。
落ち着く――。
「お。目、さめたか?」
耳に心地いい、いつもの声。
よっちゃんの声だ。
私は、よっちゃんに背負われていた。
「……うん」
夢。
昔の、記憶。
よっちゃんの血。
私は、ぎゅっと背中に抱きついた。
あの時の喪失感と、罪悪感と、いろんなものがまじったぐちゃぐちゃな感情が、まだ思い出されてた。
「珍しいな。潰れるなんて」
よっちゃんが、前に進み始めた。
だから?
私が奪った、いろんなもの。
それを気にせず、歩き出した。
だから?
今になって、あの時の記憶を夢に見たのは、だからなのかな?
「珍しくね……愛莉が、奢ってくれたの……」
私は、よっちゃんの背中に顔をうずめたまま、そう言った。
「そりゃあ珍しい。明日は雪でも降るかもな」
雪――。
私は、その単語に、ピクンと反応してしまった。
ダメだ、千代。しっかりしなさい。
この罪は、背負って生きるんだから。
反応しちゃ、ダメ。
よっちゃんのために……。
「……あのね。よっちゃん」
「ん?」
背中の上で、顔をあげて、空をあおぐ。
夜空に、月が輝いていた。
「……私も、そろそろ復業しようかと思うの」
絞りだすように、そう言う。
「お、そうか。いいじゃないか」
よっちゃんの声は、うれしそうだった。
「俺のために休んでてくれたんだし、そうしてくれた方が、俺は気分的に楽だな」
何もしらない、何も覚えていないよっちゃんの抱える罪悪感は、私のそれとは違っていた。
でも、お互いのことを考えていてくれる。
そんなよっちゃんの優しさが、うれしくて、つらかった。
「……すまん、千代」
突然、よっちゃんが謝った。
多分、この後ろにはこう続くんだ。
看病で、お金とか時間とか、私から奪ってしまった――って。
「謝らないって、決めたよね……」
でも、違うの。
あなたからいろんなものを奪ったのは、私だから。
「……だったな。すまん」
だから私は今、一生をかけて、あなたに返してるの。
二人の関係はね、きっと変わらない。
愛しあう二人。
これまでも、これからも。
でも、同時に私は、あなたに言えない、あなたが覚えていないことを抱えた上で、あなたを愛するの。
「もう」
私は、よっちゃんの背中に、顔をうずめた。
きっと、忘れるには、時間が足りてない。
私たちには、もっと時間が必要なのかもしれない。
でも、立ち上がったんだと思う。
あの、雪の日から、ゆっくりとだけど――
私たちは、前に進み始めていた――。




