第8話 祝福
ワタシは、女の答えには応じなかった。
その代わり、こんなの名前を尋ねた。
どうも、この竜は存在がおかしい。
風の気配が強いから、風竜だからだ。
それを別にしても、存在事態が何か危ういものがある。
「ーーあなた、名前は?」
尋ねる。
女は、悲しそに笑う。
首を振って言った。
『……ないの。ーーイーグ(古代レトア語で名無しの意味)と呼ばれていたわ』
『その名前だって、あなたに定着してないじゃない!』
イーグは、触れたら風になってなってしまいそうな危うさがあった。
『仕方ないわ、普通は親に名前をつけてもらえるはずなのに、ーー私は
……いなくなったの』
名前がなければ、存在は固定されない。
そんなことは知っている。
この《《子》》が、こんなに弱っているのもそのためだ。
『今までどこにいました?』
『魔族の巣に……囚われていたわ』
ワタシは、眉をひそめた。
魔族は、人間の敵だ。
竜だって、心を許していい相手ではない。
ーーそれに囚われていたとは……
『ワタシの名前を知る者がいると聞いたの』
かすれた声で、さらに喋ろうとする彼女に、ワタシは待ったをかける。
ーーこのままでは、この子は消えてしまう……
『待った! その曖昧な存在で長距離移動は、無茶です』
ワタシは、イーグに近づいて額に手を当てた。
『ともかく、《イーグ》をあなたの名前として受け取りなさい』
一拍
『それで、あなたはこの世界に受け入れられる』
ワタシの右手から、銀色の光が流れる。
それは、形を持たないものに〈かたち〉を与える光。
ーー本来なら、神殿の領分だ。
ーーでも。
《祝福》だった。
本来、人が扱っていいものではない。




