第71話 エルブラント王子
今、アルデバランにはーー西の塔にひっそりと隠されて育てられている王子がいた。
名前をエルブラントという。
女王だけが、エリーの名前で呼ぶ。
しかし、王子は振り向かない。
女王を母と呼ぶこともない。
生まれたときには、乳をたくさん飲み、たくさん寝て、たくさん泣くーー健康体な子であったが……
歪んだ魔術で、移動させられた。
実の母親とも引き離された。
闇の歪みが、エルブラント王子の身に起こっていた。
女王は、齢五十を少し超えている。
子供を授かれる身体ではないのに、この子には、執着した。
できれば、自分の次の王座を渡したいと……
でも、このままでは無理である。
自分の得意な黒魔術で治療した。
悪化させただけだった。
そこで初めてーー光の治療に思いつく。
闇が駄目であれば、光て治せばよいと。
マリシェルが、アルデバランに到着したのは、そんなときだった。
黒魔術士のことを聞いていた彼女は、風と水の二重の結界を張って、アルデバランまでの道を進んだ。
マリシェルは、クエストの内容を知らされていない。
城に直接来るように。
そこで改めて内容を知らされる手はずだったーー驚いた。
ーー王子の治療?
五歳の王子。
耳が聞こえず、喋らない。
これは、
闇の術に触れてしまったときの自衛本能。
こんなに幼いのに?
マリシェルは、驚く。
おそらく、ここを離れれば、治るはず。
対応した黒魔術士たちが言う。
女王の愛し子だと。
「手離す気はないか……」
「陛下に会わせてください」
言っておくことがあった。
イライーザが、マリシェルを玉座の間まで呼んだ。
「治りそうなのか?」
「全力を尽くします。制限付きです。中庭一帯だけ王子と陛下以外の人は、入れません」
「なに?」
「あの王子は、もとは光に属するものの近くにいたのではないですか?
用がお済みになったら返されることです。
それで王子は、健やかに育ちますよ」
マリシェルは、本当のことを偽りなく言った。




