第56話 フィニアス視点(5)
「リリベット、フィニアス・レイだ。よ、よろしく」
声が震える。
三才のリリベットは、もう一度軽くお辞儀をする。
表情がない?
目が虚ろだ。
見えてるのか?
俺は、聞いた。
「俺のうしろの精霊見えるか?」
「きれいな、おねえさんでしゅね」
無表情な顔で答える。
何も見えてないようで、全てを知っているような、青い瞳。
感情を持たない、顔。
うしろの、風の奥方に目をやる。
彼女は、俺を睨み付けていた。
俺の過去の罪を知るように。
冷たい風が、俺に降りてくる。
「風の奥方とは、どうやって契約したのさ?」
それが一番の疑問だ。
こいつが《《あの》》リリベットだとして、エラドーラで別れたあいつがーーどうして《《ここ》》にいる?
「リサベータがつれてきました」
「はあ?」
聞きなれない名前だった。
間が空く。
俺は耳を疑った。
もしかしてーー
……いや、違わない!
こいつ、風の奥方の《《名前》》をさらっと言いやがった。
「ここには、神殿の奴らは来るのか?」
「ここは、神殿の支配外区域でしゅ。
来ましぇんよ」
リリベットは、答える。
「エラドーラは、どうなってるんだよ」
思わず、口に出てしまった。
三歳の子供が、解るはずもない。
だが、リリベットは答えた。
「あの女は、代わりのお人形で満足してましゅ。今のところは」
「なんのことだよ!?」
「今は、よくわかりましぇん」
それきり、リリベットは、黙ってしまった。
彼女を守るように、優しい風が吹く。




