第55話 フィニアス視点(4)
「リリベット・モルガンでしゅ」
「……っ」
完璧なレディの挨拶。
下手をしたら、神の血筋だなんて胡座をかいてる身内の女どもより。
子供用のドレスの裾を少し上げる。
優雅なお辞儀。
正確な共通語。
これは、同名なのか? 別人なのか?
何しろ、別れたときは、生後ひとつきにもならない乳児だった。
あれから……あいつは……
ふと、思った。
それより先に、モルガン夫人が話しかける。
「まぁ、本当に立派な銀髪ですこと。
ギルドにロイル家の魔法使いが、いるのは本当のことだったのね」
なんだ?
そんなことで、俺を指名したのか?
断ろうか!?
いや……前金で、最高金貨三十枚、一年契約で六十枚。
借金を返しても、まだ余るーー
こんな、チビの魔法指南なぞ簡単なものだろう。
「よろしく、モルガン夫人」
夫人に手を差し出す。
後戻りはできない。
「……で、なんで俺に? 魔法使いの素質があれば、観察に来ますよ?」
「それが……リリベットちゃんは、力があるのか、ないのか、わからないの」
そして、この夫人からは、魔法の匂いは感じられない。
でもーー
さっき、挨拶したリリベット。
もう一度、振り返ってみる。
喉が詰まる。
三才の幼女がーー
……風の奥方を背負ってる。
風の奥方ーー俺でも知ってる。
どうしてだか、いつも彼女が近くにいるときの『圧』は感じない。
その代わりに、優しい風がリリベットのまわりに吹いていた。
守るように……




