第51話 母の執念
アルデバラン王城は、夜でも明るい。
灯りではなく、魔術の光だ。
冷たく、白い。
玉座の奥。
誰も近づかない部屋で、イライーザは立っていた。
膝をつく男が一人。
黒衣。顔は伏せたまま。
「……見つかったのね」
問いではない。
確認でもない。
ただ、結果をなぞる声。
「はい。反応は一つ。ですがーー」
男は、わずかに言葉を詰まらせる。
「……位置が、定まりません」
イライーザは、目を細めた。
「曖昧、と申すか?」
「……はい。存在は確かにあります。ですがーー特定でませぬ」
静寂。
それは失敗ではない。
むしろ、成功に近い。
だからこそ、歪んだ。
「……いいわ」
短く、告げる。
「なら、周辺をあたれ」
男が、顔を上げる。
「近接する命。条件は?」
「同時期に生まれたもの。……引っかかるものを」
曖昧な指示。
だが、それで十分だった。
黒魔術は、精密さではなく、執念で掴む。
「……承知しました」
男は、消えるように去る。
残された空間で、イライーザは一人、目を閉じた。
思い出すのは、あの瞬間。
途切れた感触。
確かに、そこにあったものがーー
手の中から、落ちた。
「……返しなさい」
誰に向けた言葉でもない。
「それは、私のものよ」
母として。
女王として。
どちらでもいい。
ただ、失ったという事実だけが、彼女を動かしていた。
その頃。
エラドーラの町では、灯りが増えていた。
騎士が走り、声が飛び交う。
消えたのは、一人の赤子。
理由は、分からない。
ただ。
ひとつだけ、確かなことがある。
ーー選ばれたのではない。
ーー近かっただけだ。
俺は、そんなことすら、知らない。
知るはずもない。
ただ、腕の中で眠るリリベットを見る。
静かだ。
何も変わらない顔。
けれど。
ほんのわずかに。
風が、揺れた気がした。
まるでーー
違うとでも言うみたいに。




