第3話 風の貴婦人
フィニアスは、汗だくでノコギリを引いている。
いつの間にか、ワタシが言った角度を守らなくなっていた。
ーー斧のようにノコギリを振り下ろしている。
さすがに、風の貴婦人が見かねて、フィニアスに、そっと風を送っていた。
ワタシは、それを止めた。
「貴婦人、これ以上は、ダメです。
商品価値が下がります」
<本当に五歳ですか? リリベットさま>
ワタシは、貴婦人を見上げて、にっこり笑った。
なにも答えない。
とうとう、フィニアスがキレた。
ノコギリに風の貴婦人の力を吹き込んで、力任せに振り下ろしたのだ。
ーーあ~あ。
牙は、根本から切れて、痛みのためにサーベルタイガーは、目覚めてしまった。
血走った、目がフィニアスを睨んでいる。
「もう自由にしてあげましょう」
ワタシが言う。
フィニアスは、「仕方ないなぁ」と風の縄の術を解く。
彼は満足なのだろう。
二本の牙を手に入れたのだ。
「これにて、クエスト終わり。ギルドに帰るぞ」
フィニアスの帰り支度は早い。
牙を拾い上げて雑に鞄に入れる。
そして、ワタシを抱き上げた。
いつものように風の貴婦人に飛ばせてもらう。
意気揚々とギルドの買い取り部門の受け付けに持っていく。
「サーベルタイガーの牙、二本だ」
買い取り商人は、切り口を見てため息を吐く。
「本当に、指定のノコギリで切ったのかい? 加工品ならつかえるが、商品としての価値はゼロだ」
「嘘だろ!? 苦労して切ってきたんだぞ。いくらになるんだ!」
ワタシが後ろから言った。
「サーベルタイガーの牙は、硬いので芸術品の素材品にもなりますーーでも、一番は、牙のままの状態が価値があるんです」
受付で座っていたおじさんは、びっくりして、ワタシを見下ろす。
「嬢ちゃん、よく知ってるな。これは、二つとも素材用で買い取らせてもらう。銀貨二枚だ」
フィニアスが受け取ろうとしたのを、横からワタシが横取りした。
「こら!! リリベット。ガキには、大金だぞ」
「最高金貨一枚の仕事を銀貨にする人に預けておけません」
今夜の宿は、ギルドの二階の宿舎ですね。
フィニアスは、不満そうだ。
お金の管理は、ワタシがやっているのだから。




