第23話 港町ゴア
小屋が軋んでいる。
ミシミシと小刻みに震える。
今日の風はいつもと違った。
潮の香りがした。
ここは、砂漠に近い小さな村だ。
王都のアスタナシヤは、海に面しているがーーここは、内陸だ。
潮の香りなど、ここまでとどくはずはない。
結界内の風ーー
イーグの風だ。
風竜として、不安定な風……
なにかあるのか?
ワタシは、急いで小屋へ戻る。
『エイルは、配達人だったでしょう?』
いつになく、安定していた。
『まだ、わかりません』
……配達人?
その言葉に、わずかな引っかかりを覚えた。
『エイルは、私に名前を付けてくれると言ったわ』
ワタシは、意図せずに尋ねる。
『……どこで?』
『ゴアの港町……』
ワタシは、唾を飲み込む。
……イーグは、思い出しかけているーー
港町ーー潮の香りの風……
『エイルは、毎日リンシャー王子からの手紙を届けてくれたわ』
いきなりの証言に、ワタシは慌てた。
『待って、イーグ。エイルは、あなたのことをイーグと呼んでいたの?』
『さあ? 覚えていないわ』
そのまま彼女は、再び歌を歌い始めた。
その歌を歌っている時は、いつも静かで穏やかな風に変わった。
二百年前。港町、ゴア。
名前の持たない竜。
ーーそして、配達人のエイル・ブレン。
そして、リンシャー王子。
もう一度、ベルナール氏に連絡を取ってみる。
金色の糸をツンツン引っ張った。
《何? リリベット、マークスは、役に立ったかい?》
「あなたの心配をしていましたよ。神殿は、イーグの存在を知っていましたね?」
《よくわかったね》
「……やっぱり」
《僕は、今屋敷に軟禁されてるんだ。だから、屋敷にある書庫をしらみ潰しにあたってるよ》
「巻き込んですみません。巻き込みついでにもう二つ知りたいことがあります」
《いいよ。面白いの好きだから
ーーなに?》
ベルナール氏の人柄のわかる明るい口調だ。
……信用していいだろう。
「ゴアとは、どこですか? リンシャー王子は、どこの王子でしょう」
《家の書庫に、神殿関係の記録も幾つかあったよ》
一拍おいて。
ベルナール氏は、喋る。
《アルテアの小さな港町にいた名もない竜のことが記録が残っていた》
ワタシは、静かにイーグを振り返った。
風が再びざわめいた。
ーーまるで何かを思い出すのを拒むように。




