第3話 学校の孤独
家を出て、最寄りの駅まで歩く。朝の通学時間帯は、人の流れが一定で、立ち止まるとすぐに取り残されるような気がする。私はその人の流れに逆らわない程度の速さで歩いた。
電車の中では座らない。座ると、隣に誰かが来る可能性が高くなるからだ。吊り革につかまり、窓に映る自分の顔を見る。そこには前髪を手で整える私の姿が見えた。
電車の揺れに身を任せていると、後ろの方から声が聞こえた。
「昨日のレポート、もう出した?」
「え、今日までだっけ?」
「そうそう、23時59分まで」
大学のキャンパスは、朝から騒がしい。楽しそうな声や、名前を呼び合う声が飛び交っている。私はその中を通り抜ける。誰からも名前も呼ばれないまま。ひとりぼっちだ。
大講義室の後ろの方に座る。隣の席は空いていた。荷物を置くほどの広さではないけれど、誰も座らない。私はノートを開き、ペンを持つ。
講義が始まると、教室は少しだけ静かになる。先生の声が一定のリズムで続く。板書を写しながら、私はそれを理解しようとする。内容は難しくない。分からないところがあっても、誰にも聞かない。家に帰って自分で調べればいいし。便利な時代でよかった。
「このあと学食行く?」
「混んでそうじゃない?」
「じゃあ駅前にしよ」
「おけおけ」
周りでは、時々小さな笑い声が起こる。内輪の話なのだと思う。私は顔を上げず、ノートに視線を落としたまま、それを聞き流す。
「ねえ、それ誰のノート?」
「たぶん、前の人じゃない?」
一瞬、自分のことを言われたのかと思った。でも、違うみたい。すこし悲しい。
休み時間、スマートフォンを取り出す。通知はない。確認して、画面を閉じる。その動作にも、もう慣れている。特に情報を頭に入れたい気分ではない。水分補給をして、机に顔を伏せる。
後ろの席から、誰かが次の講義の話をしているのが聞こえた。私はそれを、天気予報のように、ラジオのように聞き流す。自分に向けられた話ではない。それでも、机に伏せた顔を上げるタイミングって難しい。
講義が終わり、教室を出る。人の流れに乗って歩く。キャンパスを出る頃には、少しだけ肩の力が抜けていた。
今日も、何も問題はなかった。そういうことにして帰る。




