↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/39

第21話 空白の時間

 森に入ったとき、空はまだ明るかった。

 木々の間から落ちる光は白く、夕方に向かう途中の色をしている。私は夕方の空気を感じながら、奥へ奥へと進んで行った。


 足元の土は柔らかく、足音を吸い込む。歩いているはずなのに、歩いた距離が分からなくなる。

 それは時間も同じだった。どれくらい経ったのか分からない。気づいた時には、周囲は少し暗くなっていた。


 「もう夜」


 口に出してから、それは違う気もした。夜にしては暗さが足りないし、星も見えない。かと言って、昼でも夕方でもない。


 木の影の向こうに色の違う輪郭があった。あれはきっと淡い緑と、くすんだ土の色。


 「精霊さん」


 そう声をかけると、影が揺れた。


 「時間分からなくなってるね」


 声は近くからとも、頭の中からとも区別がつかなかった。すこし笑っているような声だった。


 「うん。さっきまでお昼だと思っていたの」


 「ここではそういうことも多いからね」


 説明するでも、断定するでもない何とも曖昧な言い方。

 私はその場に腰を下ろした。精霊さんは立っているようにも、木にもたれているようにも見える。


 「疲れてない?」


 聞かれて初めて自分の体に意識を向ける。不思議なくらいに平気だった。全く疲れていない。


 「全然」


 「じゃあ、ちゃんと休めてるってことだ」


 意味は分からない。何言ってるの。でも安心するからいいか。


 しばらく話さずにいると空がまた変わる。暗くなったと思ったのにいつの間にか明るい。時間が飛んだような。


 私はスマートフォンを取り出そうとして、ポケットに手を入れた。画面を見なくても分かる。電源が落ちている。


 「電池、切れてるや」


 「じゃあ時間見れないね」


 精霊さんは、それだけ言った。すこし笑っているような声だった。私は腕時計を持っていなかったし、他にもう確認する手段はなかった。


 それから何回か、会話とは言えないような会話をして、私は立ち上がる。


 「そろそろ帰る」


 「うん」


 引き止められない。突き放されもしない。ちょうどいい距離感。

 森を出ると、急に音が増えた。車の音、人の声。世界が戻ってくる。


 家に着いてからの記憶は、ところどころ抜けている。靴を脱いだか、上着をどこに置いたか、色んなことが曖昧だ。体は疲れていない。それなのに心だけが軽く空洞になる。


 森にいると時間が飛ぶ。森にいた時のことだって説明はできる。夢じゃない、現実にある場所だ。でも、戻ると何かが足りない。

 私はその空白を抱えたまま、次に森へ行く日を考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。