第16話 まどろみの底で
朝、目が覚めたとき、体が重かった。
眠れなかったわけではない。ただ、起き上がろうとすると、頭の奥が鈍く痛む。
時計を見る。まだ、ぎりぎり午前中。時間はある。
でも、今日は何かをする日ではない気がした。
喉がひりつく。水を飲もうと立ち上がり、歩こうとしたところで、めまいがした。壁に手をついて、しばらくそのまま動かずにじっと床を見つめる。部屋がゆっくり回っているような感覚。
熱を測ると、微熱より少し高い数字が出た。
体感より低い数値。つまり大したことはない。そう判断して、薬箱を探す。いつ買ったか分からない解熱剤を一錠だけ飲む。
布団に戻る。カーテンは閉めたまま。外の天気は分からない。
スマートフォンが枕元で振動した気がして、手を伸ばす。でも、何も来ていなかった。幻覚というほどではない。ただ、神経が過敏になっているだけだと思うことにする。
体調が悪いと、思考が散らばって纏まらない。
先日描いた絵のこと、美術館、日帰り旅行、そして、実家やサークル。それらの記憶が順番もなく浮かんでは消えるを繰り返す。
誰にも連絡をしない。私には家族とも友人とも思える人はひとりもいない。他人に心配されるほどのことでもないし、説明する元気もない。
こういう日に限って眠れない。私はただ、ベッドに横になって時が過ぎ、体調が回復するのを待った。
昼になっても、空腹を感じない。
無理に何かを食べると、気分が悪くなりそうだった。水だけを少しずつ飲む。
体を丸めていると、殻の内側が急に狭く感じられた。
いたい。くるしい。いつも私にとって唯一の居場所で、私を守ってくれていたはずの部屋が、逃げ場のない箱のように思えてくる。家じゅうが歪んで見えた。自分が揺れているような感覚が続いた。
静かすぎる。音がないことが、今日は少し怖かった。窓の外に、風の音がした気がした。カーテンの向こうで、何かが動いている。
起き上がって、ほんの少しだけ窓を開ける。冷たい空気が入り込む。頭が痛む。でも、呼吸が楽になる気がして、窓は開けたままにすることにした。
私はこの部屋の中だけで回復するつもりだった。でも、体はそう思っていないらしい。
夜になっても、熱は下がらなかった。布団の中で目を閉じながら、外の空気の感触を思い出す。このまま閉じていたら、もっと具合が悪くなる気がした。理由は分からない。ただ、そんな予感がした。
明日は、少しだけ外へ出よう。人のいない場所でいい。そう考えたところで、意識がゆっくりと沈んでいった。




