第13話 分からないこたえ
キャンパスの中は、普段よりも賑やかだった。なぜなら今日はテスト期間最終日である。
テストの出来具合を話す声、これからの予定を決める声。私はその間を縫うように歩き、英語の言語クラスの教室へ向かう。
最後のテストが終わった。
答案用紙を提出し、教室を出た瞬間、肩に乗っていたものが少しだけ軽くなる。解放感、というほど大きなものではない。ただ、一区切りがついた、という事実だけが残った。今日で授業は終わり、これから2か月の春休みが始まる。
最後の授業は予定より早く終わった。先生が簡単な連絡をして、今日はこれで解散だと言うと、教室の空気が一気に緩む。椅子を引く音、笑い声が重なった。
「テスト終わったしさ、飲み行かない?」
後ろの方から、そんな声が聞こえた。
「いいね」
「今日なら行ける」
「駅前でいい?」
会話はすぐに具体的になっていく。
私は鞄をまとめながら、それを聞いていた。自分には関係のない話だと思っていた。
「……よかったら、一緒にどう?」
不意に、声がこちらに向けられる。
一瞬、何を言われたのか分からず、動きが止まった。
行く、行かない。その前に、どうして誘われたのかを考えてしまう。深い意味はない。ただの流れ。そのことは分かっていた。
「き、今日は、ちょっと……」
言いかけて、言葉を選ぶ。必死に頭を回転させる。
「用事があって」
そう言うと、相手はすぐに頷いた。
「あ、そっか」
「無理しなくていいよ」
その直後、別の声が重なる。
「じゃあ、この人数で予約しよ」
「何時集合にする?」
私の答えを待つ時間は、もう終わっていた。
話題は途切れることなく進み、笑い声が戻る。私はその輪の端に立ったまま、鞄の紐を握り直す。誰も、こちらを気にしていない。
誘われなかったわけではない。
でも、いなくても困らない。
その事実が、後からじわじわと効いてきた。
教室を出て、廊下を歩く。
外の空気は少し冷たくて、頭が冴える。テストは終わったのに、胸の奥に小さな引っかかりが残っていた。
キャンパスを出る頃には、人の声が遠くなる。駅へ向かう流れから外れ、私は逆方向に歩いた。
断ったことを後悔しているわけじゃない。行きたかったのかどうかも、分からない。どうすればよかったかなんて、いくら考えても私には分からなかった。
ただ、あの場で消えても、何も変わらなかったことだけが、静かに残っている。
部屋に戻り、靴を脱ぐ。
鞄を置いて、電気をつけないまま、しばらく立ち尽くした。
終わったはずの日だった。でも、何かが始まる気配もしなかった。




