社葬
病院に搬送されたが、その夜あの女上司は死亡した。
ガタガタガタ…
帰宅後、オレは恐ろしくなり自宅の部屋でひとり、布団をかぶり震えていた。
死ぬほど嫌いとか、所詮言葉のあやで
そう思うほとんどの人が
実際その人が死ぬとか考えてない
まさか目の前で本当に…
願った通りの死に方をするなんて
「あの動画一体何なんだよ!」
ピコン
「!?」
突然スマホが勝手に起動して、あの動画が自動再生された。
狭い部屋に鳴り響くピアノのメロディ。
徐々に連弾は早く大きくなり、耳を塞いでも頭の中に響く。
やめろ
やめてくれ
「もう聞きたくない!」
ゆら…
映像画面の隅の黒い影が、
さらに大きくなり
ついには動画を真っ黒にしてしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
怖くなって、動画の説明文に記載されていた制作社に問い合わせしてみた。
『弊社でも確認致しましたところ、そのような不具合はございません。お客様のスマホ本体の異常ではないでしょうか?』
「ははっ…」
そりゃそうだよな
オレの頭がおかしくなったのか?
この黒い影は、オレにしか見えないのか?
もう、心が壊れそうだ。
「ソウダ…オマエハモウコワレテイル…」
えっ?
誰だ?オレに話しかけてくるのは
「オマエハモウ ワレワレノナカマダ…ソノカラダアケワタシテモラウゾ…」
ダダダーーーーーン!
ピアノがひときわベートーヴェンの曲のように大きく弾かれると、雷に打たれたようにオレはその場で倒れ込んだ。
数日後、仏滅の日に社葬が大々的に行われた。
「………」
遺影には、いつもの自信タップリの笑顔が映っていた。
焼香し、手を合わせる。
ヒック、ヒック
あんなに社内では嫌われてはいたものの、それでもいざ亡くなってしまうと、ショックもあってか悲しみの涙を流す者も多かった。
オレは…
不謹慎だろうか
時の経過とともに、ショックや悲しみより、喜びのほうが大きくなっていった。
そんな自分が恐ろしいなどと思う感情もなく。
手を合わせ目を閉じ、頭をよぎるのは今まで受けた屈辱の数々。
暴言、悪口、押し付けられた無理難題の数々。
人格を否定されたり、見下されたりした日々。日常的なパワハラ。
やっと
その苦しみから解放されるんだ
ニヤッ
僕は、口元が緩むのを抑えられなかった。
誰も見てないよな
誰も…
みんな悲しんで下を向いて
オレのほうなんか向いてないはずだ
その考えとは裏腹に、じっと見つめる瞳。
「大前さん」
葬儀の後、声をかけられた。
普段あまり接点のない、総務の子だ。
「あの、いきなりこんなこと言ったら驚かれるかもしれないけど…どこでつけたんですか?それ」
「えっ?」
喪服に何か白い汚れでもついてるんだろうか?
身の回りを確認する。
「いや、その、物理的な汚れじゃなくて、言いにくいんですけど…よくないモノが憑いてるんです」
「はっ?」
あぁ、この子、社内でも有名な霊感ある子だっけ。
オレはそういうの信じないから、周りが盛り上がっていても話の輪に入ることなんてなかったけど。
「そのまま放置すると、命とられちゃいますよ」
「あの人みたいに?」
視線の先には、遺影。
「!そう、ですよ…」
心底怯えている表紙で、悪ふざけで言っているのではないことがわかる。
「悪いけど、オレそういうの興味ないんだわ。ご忠告ありがとうね」
何か憑いているとしても、それがオレの願いをきいて嫌なヤツを次々と消していってくれるなら万々歳だ。
むしろツイてるっていいたい。
オレは無敵だ
憑いてるモノはあの曲、動画の中のモノなのか?
それなら出会えたオレは強運だ。
これから先、嫌なヤツなんていなくなる。
あの動画を流し、曲を聴きながらそいつが消えることを願えば、その通りになる。
ただいなくなるだけじゃない。
本当に心から憎いヤツは死んでくれた。
あんな無惨な死に方で。
「あはは…あーっはっはっ」
うれしくて笑いがこみ上げる。
オレはもう最強だ
邪魔者はこの世からいなくなる
「大前さん…もう心を乗っ取られてる…。でもあんな強力な恐ろしい力を持ったもの、私にはどうすることもできない…」
霊感少女は、手にしていた数珠を力強く握った。
「どうか…お守りください…、私も…大前さんも…」




