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戦慄のメロディ  作者: 風間 絆


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5/8

増幅する憎悪

翌朝。

寝不足で身体が重い。

寝違えたのか肩や背中もズッシリと鈍い痛みがなはしり、まるで何かが乗っているようだ。


食欲もなく、駅の自販機で缶のスープを買い胃袋に流しこむ。


あの動画と音楽に魅了されたオレは、イヤホンをして移動中画像を見続けていた。

歌詞はないし映像は淡々と湖面と波紋が広がっていくだけなので、雑念が排除される。


昨夜の上司からの連絡にまだ怒りがおさまらないオレは、この動画のタイトル通り嫌な人が消えてくれるなら、あのババァが本当に消えてくれればと、頭の中で殺意をあらわにしていた。


あんな憎たらしいヤツどんな死に方がふさわしいだろう


殺れるんだったらどんなふうに殺ってやろうか


今までみてきたサスペンスドラマや映画、ミステリー小説を思い出し考えてみる。



そうだな

まずは能面みたいなあの小ぎれいなお顔は血まみれにしてやろう


そんでもって

ただ殺すだけなんてつまんないよな

今まで多くの人を苦しめてきたんだ

ジワジワと恐怖で追いつめて

これまでの己の罪を詫びながら

苦しんで逝ってほしい


妄想殺人がこんなに楽しいと思えるなんて

オレってサイコパスの傾向があるんだろうか

いやいや

それだけあのババァに苦しめられてきたってことだ

オレだけじゃない

あの会社で働く多くの社員が

理不尽な暴言やパワハラを受けてきた

仲良かった性格いい人達も

難くせつけられて本部にデタラメな悪評を植え付けられ

退職や左遷という目にあった

各機関に訴えても

誰も助けてはくれなかった

あのババァはいい家柄の娘で

政界ともつながりがあり

何かと援護される

苦労をしらないから

人の痛みがわからないから

知ろうともしないから

平気で人を傷つける

そんなヤツを管理職に据える会社も会社だ

親のコネもあるんだろうな



「ん?」

画像の隅の黒い影が大きくなって、人影みたい。

白い点が光る。ふたつの目のようだ。

こっちを見ている?

「まさか…」

目をゴシゴシこすると、影はなかった。

昨日寝不足だからか?

それともそういう隠れキャラ的なものが埋めこまれているのだろうか



別路線乗り換えの駅になり、大勢の人が一気に降りた。

座席が空き、やっと座れる。よかった


目を閉じるとウトウト

耳に心地よく響くピアノの音色

軽やかメロディ

少し気持ちが落ち着く


あんなヤツ

 あんなヤツ

死んでしまえ

 消えてしまえ


呪文のように頭の中でまわる恨みの言葉

夢心地

黒い渦に

ババァが飲みこまれていくイメージ映像がみえる

そこに

刃物をもった黒いフードの人物がきて

白い顔を切り刻んでいく

もしかしてこれは死神…?



「ハッ!?」

短時間ながら怖い夢をみた。

次は降りる駅だ。

急いで準備する。



想像だけでも嫌なヤツを酷い目に合わすと、ちょっと気分がスッキリする。

「ゲッ」

しかし当人を目の前にすると、再び現実が蘇る。


いつもは車通勤のクソババァ上司が、オレの少し前を歩いている。

同じ電車だったのか。

そういえば旦那が仕事で車を使う時は電車通勤だと話していた。

あんなのと結婚するもの好きもいるんだな

所詮金目当てか


夜中あんなことがあったばかりだし挨拶も交わしたくないオレは、適度な距離を保ち気づかれないように後ろを歩いていた。



すると…



キキーーーーーツ

バァァァァーーーン!



すごい音がして、目の前に白い煙が立ちこめた。


「なんだかんだ!?」

「事故だーっ」

「おいっ、誰か救急車っ」



あたりが騒然となった。



視界が開けて最初に目の前に飛びこんできた風景は、いつもの日常が一転。

十字路を曲がり損ねてガードレールを突き破り歩行者用道路に突っ込んできた、不用品を大量に載せたトラックが、前を歩いていた上司を轢いたあとだった。



「うそ…だろ…?」


急いで駆けつけると、さっきまでピンピンしていてスタスタと歩いていた人間が、今倒れマネキンのように横たわり、ありえない方向に腕や足が曲がっていた。


「ウッ…」

意識はかろうじてあるようで、口から血を吐いた。

ばっちり化粧した白い顔にはガラスの破片が無数に突き刺さり、赤い血が流れていた。

それはオレが望んでいたような姿だ。


「グフッ、オエッ」

恐怖と気持ち悪さで吐き気がこみ上げる。

ついさっきまで普通に歩いていた人が、一瞬でこんな変貌を遂げるなんて。


「た、たすけ…だ…れか…」

歳の割に高くよく通るあの声が、消えそうなか細い声で、救いを求めている。

目がおよぎ、オレをキャッチした。


「お…ま…え…が…」


えっ


オマエガヤッタノカ


そう言われた気がした。


すべてを見透かされているような




ピーポーピーポーピーポーピーポー



救急車のサイレンが響き、救急隊員が駆けつけた。


救助に入った人のひとりが、黒ずくめにみえた。

それはあの画像の片隅の影のように。


「えっ?」

違う違う。

紺色のヤッケを着ているだけだ。



救急車が立ち去るとともにヤジ馬も解散していったが、残されたオレはブルッと身震いがした。



これは、あの動画の力なのか?

あの曲は本当に、嫌な人を消してしまう力があるのか

だとしたら今回のことは、オレのせい…?


鳥肌がたつ。

もしかしてオレは、取り返しのつかないことをしてしまったのだろうか…




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