次々と消えていく人達
結局、体調不良で休んだふたりはその後も出勤することはなかった。
コロナではなかったものの、本多さんはストレスで自律神経系をやられてしまい、めまいもひどくドクターストップがかかり休職することになったらしい。
脇田さんは出勤しようとすると気分が悪くなり、ついには電車にも乗れなくなって、家から一歩も出れないのだという。
「脇田さん、電話口で変なこと話してるんです。黒い人影がずっと僕を見張っていて、歩こうとしても邪魔してくるんだ…って」
「ははっ、それやばくね?相当精神的に病んでるでしょ、幻覚がみえるって」
「人事の人が言ってたんですけど、確かに統合失調症の病歴があるらしいです。薬を飲んで症状は抑えられるし、面接時の試験でも問題なかったから採用したらしいですけど、新しい環境に順応できなくて悪化してしまったのかもしれないですね」
結局、1ヶ月後に脇田さんは休職の後自主退職。
本多さんはまだ籍はあるが、休職扱いとなっている。
「たぶん復帰は難しそうだけど…ご家族もまだ若いし、何とか回復した後再出発を目指したいみたいで」
「そうなんだ」
しかし、このふたりがいなくなっても、まだオレには敵がいる。
完璧主義なオレは、厄介な人間はすべて自分の目の前から消し去りたかった。
今日の敵は社内ではない、お客のほうだ。
「いらっしゃいませ」
カスハラ寸前の、クレーマーのオバハン。
金は持っているようだがケチで、商品に難くせつけては値引き交渉してくる。
オレはコイツが嫌いだ。
客なら何してもいいわけなんかない。
それなのに頭を下げヘコヘコして。
おまけに責任者のババアも周りの同僚たちも、めんどくさいコイツの相手をオレに押し付けて、なんのフォローもしてくれない。
ただ黙ってみてるだけ。
挙句の果てには
「あの人の対応できるプロフェッショナルは他にいないから」
なんておべっかいいやがって。
今日も無茶振りを言い渡された。
「この前買ったお餅、白いのついてたわよ。あれカビじゃないの?食べてから気付いたのよ。その後ちょっとお腹下しちゃったの。保健所には黙っといてあげるから、新しいのくださらない?」
ほら始まった
そして
みんな見て見ぬふり
オレひとり晒し者かよ
「お客様、その時のレシートは…」
「レシート?そんなのいちいちとってないわよ。せこせこ家計簿つけてる貧乏人じゃないんだから。それに会員登録してるんだから、そちらの記録でいつ何買ったかくらいわかるでしょう?」
そんな感じで、延々と理不尽が続いた。
あぁ
もう嫌だ
お前なんか
消えてしまえばいいのに
二度とオレの前に姿見せるなよ
・
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・
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・
とりあえず言いたい放題言ってから解放されたオレは、ムシャクシャして喫煙所でタバコを吸いながら、あの曲をボリューム抑えて聞き流した。
「あんなヤツ、あんなクソみたいなヤツ、消えろっ、消えてしまえ!」
憎しみと苛立ちをこめて、灰皿に火のついたタバコを押し付けた。
シュウ…
オレンジ色の灯火は消え、白い煙が立ち上る。
オレの心と呼応するかのように、ピアノのメロディが連弾する。
「ふぅ」
一服して気持ちを落ち着かせると、業務に戻ったオレに、同僚が真っ青な顔で告げた。
「あの…さっきの厄介なお客様、うちを出たその先の曲がり角で転んで排水溝に落ちて、その時電柱で頭を打って意識不明らしいです」
「えっ!?」
「郵便出しに行ったら救急車が来ていて人だかりできていたので、話を聞いたらそんなことを…」
まさか…
あの曲が…?
偶然…だよな…そんな…
動画再生して曲流すだけで…
こんなにすぐ…
本当に…
嫌な人が消えていくなんて…
ありえないよ…
事務所へ行き呆然と立ち尽くすオレに、背後から声をかける人物が。
バイトのおばちゃんだ。
「あの…急で申し訳ないんですけど腰を痛めてしまって…何のお力にもなれないのにお給料もらうのは申し訳なくて、退職させていただくことになりました。勝手を言いまして、ご迷惑をおかけしてすみません」
「はっ?そうなの?」
そういえばここ数日見かけなかったが…
「まぁ、身体が大事なんで、お気になさらず」
オレとしては使えないバイトなんていないほうが逆に助かる。
お世話になりました、なんて言いながら嬉々として立ち去る姿。
きっと早く辞めたかったんだろうね。
それにしても…
「また新たにふたり…嫌な人間が消えた…」
それもあの曲を流してから、すぐ。
今のところ4人。
あの動画と遭遇してから、消えたオレの嫌な人達。
これはただの偶然か
それとも…
本当に何かしらの力が働いているのか。
真相は未だ闇の中だ。




