情報屋 レオ
翌日――。
ガッシュに監禁されていた子供たちは、それぞれの居場所へ帰っていった。
親のいる子は親の元へ。
孤児は孤児院へ。
夕暮れの広場には、泣き声と笑い声が混ざっている。
「よかったなあ……」
レオは鼻をすすった。
兄妹で抱き合う子供たち。
泣きながら頭を撫でる母親。
昨日まで地下牢にいたとは思えない光景だった。
「そうですね」
隣から返事がくる。
だが、その声はどこか遠かった。
隣でセレナは広場を眺めていた。
じっと、まばたきもせず……。
その顔から感情は読み取れない。
「姉さん?」
その瞬間、セレナは小さく息を吐いた。
それだけだった。
本当にそれだけだったのに、なぜかレオは胸がざわついた。
「帰りましょうか――」
セレナは踵を返す。
「えっ?」
「仕事は終わりましたから」
セレナは、いつもより少し早足だった。
慣れた足取りで路地裏に入っていく。
夕日も届かない昏く細い道だった。
レオは慌てて追いかける。
「ま……待ってよ!」
セレナは振り返らない。
「姉さん!」
それでも止まらない。
何か言わなければと思った。
このまま見送ってはいけない気がした。
理由は分からない。
ただ、放っておきたくなかった。
「俺さ――」
ようやくセレナに追いつく。
「姉さんに拾ってもらって……本当に助かったんだ」
セレナが足を止めた。
「だから俺、恩返しがしたい!」
返事はない。
きょとんとした顔でレオを見ている。
レオは沈黙を避けるように続けた。
「あ……ね、姉さんって、いつも一人じゃん?」
そう切り出してから、少し顔が熱くなる。
後悔のようなものもあったが、もう止まれなかった。
「だからさ……」
勇気を振り絞る。
「俺たち、か、家族みたいになれたらいいなって!」
大通りの方からの喧騒が、風に乗って聞こえてくる。
セレナは無言で、レオを見つめたままだった。
「……家族?」
静かな声だった。
「う、うん、そう、家族」
レオは何度も頷く。
「姉さんは俺の恩人だし、さ……」
セレナは笑っていた。
いつもの笑顔だった。
だけど……どこか違っていた。
「やめてください」
レオはひゅっと息を呑み固まる。
「そういうの、嫌いなんですよ」
セレナは笑顔のまま言う。
だからレオには余計に意味が分からなかった。
「え……?」
「あなたは私の情報屋です」
レオは一歩後ずさった。
「私は依頼人」と、セレナは自分の胸に手を当てる。
「いいですか? 私たちの関係は、それ以上でも、それ以下でもありません」
レオは言葉を失っていた。
自分は何かを間違えたのだと悟る。
だが、何を間違えたのかは分からなかった。
「姉さん、俺は――」
「もう帰りなさい、レオ」
さえぎる声は穏やかだった。
怒ってもいない。
だからこそ残酷だった。
「今日はご苦労様でした」
仕事相手に向ける声だった。
それ以上でも、それ以下でもない。
セレナは一礼する。
そしてまた、昏い道に向かって歩き出した。
「あ……」
呼び止められなかった。
レオは遠ざかるセレナの背中を見つめる。
追いかけることもできない。
振り払われたわけじゃない。
怒鳴られたわけでもない。
それなのに……。
胸の奥だけが痛かった。
路地の向こうで、セレナの姿が消える。
最後まで一度も振り返ることはなかった。
レオはそのまま両膝を付き、声にならない慟哭に震えた。




