#03. 攻撃力ゼロの剣、俺が持つと最強なんだが
鑑定結果を見て、俺は目を疑った。
あれだけ研いだのに攻撃力が無いなんて、ありえない。
「……チッ、斬れもしないとは使えない。よくもまぁこんな無価値な剣を作ったものだ」
無価値。
その言葉に、俺は激しい怒りを覚えた。
「価値が、ない……だと?」
突然、黒剣が紫紺の光を放つ。
なぜだろう、シャーテを想うと力が溢れてきた。
拘束を引きちぎり、重力をものともせず跳ね起きる。
そうして戦士を振り切って、俺は──。
「グフッオォッ!!?」
──気付けば、アンゼルを殴り飛ばしていた。
頑丈な兜に食い込んだ拳からは血が滴り落ちているが、こんな痛みはなんてことない。
「鍛冶師アインハードの名において、万が一にも無価値はありえない!」
これはシャーテが痛い思いをして折ったツノだ。
俺が丹精込めて作った剣だ。
それを無価値だなんて誰にも言わせない。
アンゼルが落とした黒剣を拾い上げると、剣は俺の想いに呼応するかのように魔力が膨れ上がる。
全身全霊を込め、そいつを振り下ろす。
──その瞬間。
黒剣から魔力の刃が放出された。
「…………えっ?」
「──な、なに!?」
ソードビームなどと呼称できそうなその斬撃を、アンゼルは即座に地面を転がって回避する。
「き、貴様、なんだその威力はっ!? 本当にその剣でやったのか!?」
焦りを隠せないアンゼルが叫ぶ。
さっきまで自分が倒れていたところの地面に、縦一直線の物々しい斬痕が残っていたのだから、無理もない。
「チッ、どうやら素人のフリが上手いようだ。俺も未知数の相手と戦うほど馬鹿ではない。今回は引いてやるが、次はこうはいかないからな」
いや、俺自身も驚いているのだが……。
勘違いしたアンゼルは、戦士と共に去っていった。
ひとまず、助かった……のか?
気を緩めると、黒剣は紫紺の光を解いた。
「ありがとう……またあなたに、助けてもらった」
「いや……あの、シャーテさん。なんすかこの威力は?」
俺は思わず剣の素材元であるドラゴンに聞く。
するとシャーテはポッと頬を赤く染め、腰をくねらせた。
「私の体を使ってくれてるのが嬉しくて、つい溢れちゃった……♡」
「いろいろ誤解を招きそうな言い方はやめてくれ!」
やはりこの竜、大人しそうな顔をしておいて言動が非常に怪しい。
「詳しくは鑑定してみればいいと思う」
「急に落ち着くな……まぁ確かに」
再び鑑定魔法で調べてみると──。
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《ヴァールホルン》
攻撃力:38,420
魔力:58,200
備考:好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好──(鑑定停止)
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「備考ってなに!? あとなんだこの馬鹿げた攻撃力と魔力は!? こんなの魔剣クラスじゃないか!」
好きを連呼しすぎだろう。
まるで剣にシャーテの思念が詰まってるような?
こんなに重い剣は初めてだ……。
「さすがアインハード。天才鍛冶師……」
「いや、明らか俺の実力ではないだろ!? これ絶対お前が原因だろ!?」
ドラゴンはツノで魔力を制御し魔法を使うが、頭に近い器官であるためその時の感情によって威力は大きく左右される。
シャーテが持つ俺への愛が強すぎるから、俺が装備した時だけ性能が跳ね上がったのか……?
だが、シャーテは首を横に振った。
「いくら素材が良くても、作り手の技量が足りなければ宝の持ち腐れ。ここまで効果を発揮できたのはあなただったからだと、私は思う」
「……そう、か」
確かに、もしシャーテの想いだけでここまでの性能を出すのなら、ツノを受け取った時点で魔力が溢れていたはずだ。
そうか、この剣が良いものになった理由は──。
「……アインハード」
「な、なんだよ」
「……嬉しかった。価値があるって、言ってくれて」
腕に抱きついてくるシャーテはここからじゃ顔がよく見えないが、耳が少し赤くなっていた。
まぁ元々表情は読みづらいが、シャーテの言葉が全て本心であることはわかっている。
「……実を言うとな。俺は良い剣ってやつがわかってなかったんだ」
「え……?」
「良い腕、良い材質、良い砥石……それさえあれば剣も良くなるとばかり思っていたが、それだけじゃ足りなかった。相手を思う気持ち、真心を忘れていた」
今まで俺は使い手のことを考えず、質の良さばかり気にして独りよがりな剣を作ってしまっていた。
オーダーメイドを中心に引き受けていた親父も相手のことをよく見ていたのを思い出した。
「俺が思う良い剣は、これだ」
「……ヴァールホルン?」
「あぁ、シャーテが俺を想って渡してくれたツノだったから、俺もそれに応えようと必死になれた。だからコイツは良い剣になったんだ」
相手を想い、丹精込めて作った剣には魂が宿る。
魔剣を眺めると、黒刃の縁が太陽の光に透けて紫色に煌めいて見えた。
俺はその美しい黒刃を眺め、少々名残惜しいが鞘に納める。
「だからその……ありがとな」
思えば、ちゃんと礼を言ってなかった。
なんだか気恥ずかしくて顔が熱くなる。
「……シャーテ? どうかしたか?」
恥ずかしさを誤魔化すようにそそくさと腰のベルトに鞘を取り付けていると、シャーテがじっとりとした視線を向けていたことに気付く。
するとシャーテは、不意に俺の耳元に顔を寄せ──。
「……これで、ずっと一緒だね♡」
ぽそりと、湿っぽい声色でそう囁いた。
あの妖しく光る紫紺の瞳からは逃げられない。
俺は本能でそれを理解した。
──となれば、一緒に来てもらおう。
「じゃあ、行くか」
「……! 寝室、だね」
「いや探索だよ。なに普通にベッド・インしようとしてんだ! もっと段階をだな?」
誤解されたせいではあるが、誘い方がいきなりすぎて額に変な汗が滲む。
しかし、一度制したところでシャーテは止まらない。
「むっ……あなたが三日三晩かけて剣を作ってる間に私たちの愛の巣は探索済み。ベッドの場所くらいわかってる」
「そうか、俺は今ナチュラルな不法侵入を報告されて戸惑ってるんだが……まぁそれは置いといてだな?」
「初夜はいつにする? 今夜?」
「頼むから一回止まってくれないかなぁ!?」
愛の巣とか初夜とか、俺達はまだ出会ったばかりなんだが。
「と、とにかくだ! この角魔剣を作って砥石を使い切っちまったからな。クエストを発注する金もないから、自分で採掘しに行くんだよ」
「あぁ、そっか。それであの時も鉱山に来てたんだ」
「そ。俺が貧乏なおかげでお前は助かったわけだ。あの時も結局採掘できなかったし、少しは手伝ってもらうぞ」
「ん……任せてほしい」
片角を失い弱体化してるとは言え、シャーテはドラゴン。
正直、傍に付いていてくれるだけでも心強いのだ。
「あなたの役に立てるのは嬉しい。やっぱりツノを折ってよかった」
「あ、あぁ、でも自分の体は大切にな……?」
「わかってる。あなた以外には触らせない。私を傷付けていいのはあなただけ。だから今夜は、私に一生消えない傷を付けて……?」
「一生ものの傷ならもうあるだろ! その責任は取るから!」
また「初夜を」とか言い出しそうな熱い視線を送ってくるシャーテを制していた、その時。
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《ヴァールホルン》
攻撃力:40,700
魔力:59,800
備考:好き好──(鑑定停止)──き大好き♡
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発動したままだった鑑定魔法がそれを知らせる。
なんか、さらに性能が上がってるような……?
と、そこまで思考を巡らせて俺は鑑定魔法を解除した。
きちんと鑑定できないなんて、俺もまだ未熟だな。
うん、そう。だからこれは、きっと気のせいだ。




