第9話:Love
1:ネオン街の誘惑
【銀座 20:07】
高級レストランを追い出され、あてもなく歩き回る凛太朗(莉子)と璃々花。
街灯とピンクのネオンが交差する一角。
看板には「ホテル ルナ♡パラダイス」「カップルズ・スイート」など——完全にその手のホテルがズラリと並んでいる。
璃々花は、まだ頬を赤く染めていて足元がふらふらしていた。
「もう……歩けない……♡どこかで休憩していこ?」
凛太朗は周囲を見回して青ざめた。
「ど、どこかって……この辺、インバウンド爆増でビジネスホテルすら満室だし……。ていうかここ完全にラブホ街じゃん!!」
璃々花は、とろけた瞳でネオンを指差した。
「ホテルなら……あそこにあるじゃん?」
ピカピカ光る「ホテル ルナ♡パラダイス」。入口には「休憩3時間 7,800円〜」「お風呂はジャグジー完備♡」の看板。
凛太朗は顔面を真っ赤にして後ずさる。
「ちょ、ちょっと待て待て待て!!俺まだ心の準備が——!!」
璃々花は完全に甘えモードで——凛太朗の腕に絡みついた。
「だめ♡だって……さっきの続き、したいもん……」
耳元に息がかかる距離で囁いた。
「今度は……誰も来ない場所で、最後まで、ちゃんと……ね?」
凛太朗の心臓が、バクバクと鳴った。
(マジか……マジでここまで来ちまった……!銀座のラブホで童貞卒業って……俺どうなっちゃうんだよ!!)
【回想:凛太朗——高校1年、配信者時代】
凛太朗は、顔出しなしで女装配信をしていた。
コメント欄には「結婚したい」「天使すぎる」というコメントが溢れていた。
だが——凛太朗は、画面越しに微笑みながらも、内心では思っていた。
(みんな、俺のことなんて何も知らないくせに……)
(でも……璃々花さんは、違う)
凛太朗が伏目がちに璃々花に目をやると、微笑みを浮かべ凛太朗を見つめている。
(璃々花さんは……俺の全部を知ってる)
凛太朗は、決意した。
「……分かった。行こう」
「え……本当!?」
璃々花の目の中で、キラキラと星が輝いた。
「うん……」
凛太朗は、璃々花の手を握ったまま、ホテルの中へと足を踏み入れた。
2:禁断の果実
【ホテル ルナ♡パラダイス 807号室「ムーンライト・スイート」 20:22】
ピッ。
カードキーが鳴り、ドアがガチャリと開いた。
部屋の中は……
・真ん中にドーンと鎮座するキングサイズの円形ベッド
・ピンクと紫の間接照明
・ジャグジーバスが丸見え
完全に”そういう部屋”。
部屋の照明が自動でさらに暗くなり——ムーディーなBGMが流れ始めた。
凛太朗は、ドアの前で完全に固まった。
(ヤバい……ヤバい……ヤバい……マジでヤバいって……!!)
璃々花は、もう完全にスイッチオン。
コートを脱ぎながら、ふらふらとベッドに近づいて——ぽふっと座った。
「凛太朗……こっち、おいで?……もう、待てない」
璃々花は、ベッドの上でゆっくりと体を横たえた。
「今日は……全部、凛太朗にあげたい」
凛太朗はガタガタ震えながら、独白した。
(……マジで……やるのか……?俺……本当に……ここで……)
心臓の音がドクンドクンとうるさい。
覚悟を決めてホテルに足を踏み入れたものの、いざ目の前にすると足がすくんで動かなかった。
(璃々花さんを悲しませたくない……。でも、今の俺が、中途半端な気持ちで璃々花さんを抱いてもいいんだろうか?)
凛太朗は頭をフル回転させながら、部屋の隅々を見渡す。ふと、ルームサービスのメニューが目に飛び込んできた。
3:作戦決行
凛太朗は、ふと思いついた。
(待てよ……受付に頼めば、酒の一つや二つは出てくるはず……。それを璃々花さんに飲ませて寝かせちゃえば……今日のところは童貞キープできる!!天才か俺!!)
思い立ったら即行動。凛太朗は、表面上は爽やかスマイルで璃々花に話しかけた。
「ねぇ、それより喉渇かない?何か飲み物頼もうよ!」
璃々花はベッドに横たわりながら——ちょっと物欲しそうに答えた。
「ん……?うん、いいよ……♡」
凛太朗は部屋のメニューを見ながら、タッチパネルを操作した。
(酒とか飲んだことないから全然わからん……。梅酒のソーダ割り?なんか甘くて美味しそうだしこれでいいか……)
(※この物語はフィクションです。実在する人物、団体とは一切関係ありません。お酒は二十歳になってから。未成年の飲酒はダメ!絶対!)
しばらくすると、部屋のドアにある小窓が少し開いてグラスが2杯置かれた。
凛太朗は、内心でガッツポーズをした。
(完璧!!これで一気に酔わせて……!)
凛太朗はグラスを二つ手に取り、一つを璃々花に渡した。
「ほら、せっかくだし乾杯しよ!今日は特別な日だろ?」
璃々花は、ちょっと怪訝そうにしながらも——起き上がった。
「……うん、いいけど……」
カチーン。
グラスが軽い音を立てた。
1杯目。
凛太朗は、心の中でカウントした。
(3……2……1……いけー!)
璃々花はゴクッとグラスを傾けた。
10秒後。
璃々花の顔が、一瞬で真っ赤になった。
「…………ふぅ♡」
凛太朗はニヤリと笑った。
(効いてきた効いてきた!!)
璃々花の瞳が、とろーんと溶けた。
「なんか……体が熱い……♡ねぇ凛太朗……もっと近く……」
凛太朗は、内心で叫んだ。
(よし、もう一発!)
凛太朗は、自分の持っていた2杯目を「あげる」と言って璃々花に飲ませた。
グラスを飲み干した璃々花は、完全にスイッチが再点火した。
「……あは……♡凛太朗……もう我慢できにゃい……」
凛太郎は璃々花の舌ったらずな声を聞き、完全に酔い潰れたと確信する。
(これであとは朝まで寝かしとけば、全部丸く収まるってわけ。俺って頭いい〜)
凛太郎が勝利の余韻に浸っていた、次の瞬間……
ガバッ!
璃々花が凛太朗に覆い被さる形で、ベッドに押し倒す。
「ファッ!?」
凛太朗は、素っ頓狂な声を上げて倒れ込んだ。
「ちょ、待て!?酔ったら寝るパターンじゃなかったのかよ!!」
璃々花は荒い息で、完全に獲物を狙う獣のような目で凛太郎を見つめる。
「寝るわけ……ないじゃん……♡こんなに熱くなっちゃったの……凛太朗のせいだよ……?」
完全に作戦大失敗!!
むしろ火に油を注いだだけだった!!
4:最後の切り札
凛太郎は高級レストランでの攻防を思い出し、璃々花の左耳のほくろへと手を伸ばす。
だが、それを察した璃々花が素早く凛太郎の腕を掴み、ベッドに組み伏せる。
「その手は使わせないよ……。凛太郎、私のものになって……♡」
璃々花の顔が近い。目がとろんと潤んでいて、唇が半開きになっている。
凛太郎の頭の中では一瞬「もうゴールしてもいいよね……」という考えがよぎったが、まだ最後の手段が残されていることを思い出す。
【回想:凛太朗——中学時代、女装配信に向けた練習】
「もっと高く……もっとかわいく……」
凛太朗は自室で何度も何度も、女性らしい声を出す練習をしていた。
喉を意識的に狭くして、メラニー法を組み合わせる。
「これで……バレないはず……」
凛太朗はやがて、プロ級の萌えボイスを自在に出せるようになった。
「かわいい女の子ボイス」「お姉さんボイス」「ツンデレボイス」——
全てを、使い分けられるようになった。
璃々花が完全に獣モードで覆い被さった瞬間。凛太朗は天井に向かって——全力の萌えボイスで絶叫した。
「きゃああぁぁぁぁっ!!誰か来てぇー!!助けてぇー!!ケダモノよぉー!!今襲われてるのぉー!!」
萌え声+絶叫コンボが——壁を突き抜けて廊下に轟いた!!
次の瞬間。
ドンドンドンドン!!
「どうしましたか!?」
「おい、女の悲鳴がしたぞ!?」
「警察呼ぶか!?」
ドアが、ガチャガチャガチャ!
バァン!!
マスターキーを使用した店員2名と隣の部屋の客が一斉に乱入した!
「お客さま大丈夫ですか!?」
店員の視界に飛び込んできた光景——
・ベッドに押し倒されそうになっている超絶美少女(莉子)
・ 上に乗っている黒髪ロングの美女(璃々花)が完全に狼狽
莉子は涙目で即座に演技した。
「今、変態の露出狂が部屋に乱入してきて……。そしたらこの窓から外に逃げてったんです!そうよね、お姉さま?」
莉子は、璃々花にチラッと「協力しろ」という目線を送った。
璃々花は一瞬固まった——が。
すぐに、氷雪女王のポーカーフェイスが復活した。
「……ええ、まさにその通りです。私はこの子を守ろうとしただけ……」
店員たちはパニックになった。
「露出狂!?」
「マジかよ!?」
「防犯カメラ確認します!!」
大パニックの中——莉子は、サッと服を整え、髪を直し、涙を拭って完璧な被害者顔を作った。
莉子は、小声で璃々花に囁いた。
「……これで今日のところはお預けだね」
璃々花は耳元で囁き返した。
「……覚えておくね?今夜は逃げられたけど……次は絶対逃がさないから♡」
店員に囲まれながら——二人は、なんとか部屋を後にした。
こうしてこの夜の出来事は、銀座のラブホテルでの「露出狂事件(迷宮入り)」として人々の記憶に残ることとなった。
5:夜の街で
【銀座 21:15】
凛太朗と璃々花は、手を繋いだまま……夜の銀座を歩いていた。
「ねぇ、凛太朗」
「ん?」
「今日、なんだか一日中バタバタしてたけど、すごく楽しかった……」
璃々花は少し頬を赤らめたまま続ける。
「……私が生きてきた中で一番かも」
凛太郎も璃々花を見つめながら、ふっと微笑む。
「そうだね……。俺も今日は最高に楽しかったよ」
璃々花が少し上目遣いで呟く。
「また……デートしよ?」
璃々花は、凛太朗を見つめた。
「……うん」
凛太朗は、こくんと頷いた。璃々花は嬉しそうにへにゃっと笑う。
「次は……どこ行く?」
「え、えっと……」
凛太朗は少し考えてから——答えた。
「……今度は、俺が璃々花さんを連れて行きたい所に案内するよ」
璃々花は、目を見開いた。
「え……?」
「だって……璃々花さん、今日一日、俺のために色々準備してくれたでしょ?次は、俺が璃々花さんをエスコートする番だから」
凛太朗は、璃々花を優しい目で見つめた。
璃々花の瞳に薄い涙の膜が張った。
「凛太朗……」
「璃々花さん……?」
「……嬉しい」
璃々花は、人目も憚らず凛太朗に抱きついた。
「凛太朗……大好き……」
凛太朗がぎこちない手で璃々花を抱きしめた。
「俺も……璃々花さんのこと……」
凛太朗は言葉に詰まった——が、璃々花は優しく微笑んだ。
「……言わなくていいわ。今は」
凛太朗の胸に顔を埋めながら、くぐもった声で。
「ゆっくりでいいから。凛太朗のペースで」
凛太朗は、璃々花の頭をそっと撫でた。
(璃々花さん……俺……)
夜の銀座に、二人の影が寄り添っていた。
6:帰り道
【電車の中 21:54】
二人は電車で帰路についていた。璃々花は凛太朗の肩に頭を預けて、うとうとしている。
凛太朗は、揺れる車窓の外を見つめた。
(今日……色々あったな……)
東京駅での待ち合わせ。
皇居外苑でのピクニック。
銀座でのショッピング。
東京ドームシティでの観覧車。
そして——高級レストランとラブホテルでの……。
凛太朗は、顔を真っ赤にした。
(あれは……恥ずかしすぎる……)
だが、凛太郎の脳裏には今日一日の璃々花の様々な表情が浮かんでくる。
(でも……楽しかったな)
凛太朗は、隣の璃々花を見た。安心しきった顔で眠っている。
(璃々花さん……)
璃々花の手をそっと握る。
(俺……璃々花さんのこと、好きなんだろうな)
電車がゆっくりと駅に到着した。
「璃々花さん、着いたよ」
「んん……」
璃々花は目を擦りながら呟いた。
「……あれ……凛太朗……?」
「駅、着いたよ」
「あ……」
璃々花は、慌てて顔を上げた。
二人は電車を降りた。駅のホームは、通る人もまばらな時間帯だ。
「じゃあ……」
「うん……」
璃々花は、じっと凛太朗を見つめた。
「……凛太朗」
「ん?」
「今日……本当に、ありがとう」
璃々花の唇が、凛太朗の頬にそっと触れた。
「……!」
「おやすみなさい♡」
璃々花は、そのまま去っていった。
凛太朗は頬を押さえて——呆然と立っていた。
(璃々花さん……)
凛太朗の胸がギュッと締め付けられた。
(……俺、やっばり璃々花さんのこと、好きだ)
凛太朗は駅のホームに立ったまま、璃々花の去って行った方をぼんやりと眺めていた。(つづく)




