第8話:Do Not Disturb
1:完全密室の罠
【銀座・レトワール・ダルジャン 完全個室 19:05】
カチャリ。
重厚な扉が閉まると、外の音が完全に消えた。
まじで完全密室。
カーテンも厚手のベルベットで、外からは絶対に見えない。
テーブルは二人分だけ、キャンドルがゆらゆら揺れている。
凛太朗(莉子)は、周囲を見回した。
(個室って言っても人の目もあるだろ……って、ない!!完全にない!!)
凛太朗は、腹をくくって椅子に座った。
(……ま、まぁ、そうは言っても、店員さんは入ってくるし……そこまで大胆には……)
その瞬間。
璃々花はソファに座ると同時に、テーブルの下のスイッチをポチッと押した。
ガシャン。
テーブルの上に「Do Not Disturb」の札が自動で立ち上がる。
同時に、照明が一気に落とされて——キャンドルだけになった。
店員の声が、インターホン越しに聞こえた。
「お客様、ごゆっくりおくつろぎくださいませ。次のお料理は1時間後でよろしいでしょうか?」
璃々花は、にっこりと笑った。
「お願いします♡」
「1時間!?」
凛太朗は、思わず叫んだ。
璃々花は手を伸ばして、凛太朗の手にゆっくり自分の手を重ねた。
「ねぇ、莉子ちゃん」
キャンドルの火に照らされた璃々花の顔が、めちゃくちゃ色っぽい。
璃々花がそっと指を絡めてくる。
「今夜は、私が莉子ちゃんの”彼女”になってあげるから♡」
凛太朗の顔が、一気に真っ赤になった。
「は!?ちょ、待て待て待て!!」
璃々花が耳元で囁く。
「もう誰もいないし、凛太郎って呼んでいいよね?……今日は何でも言いつけてね……。1時間、誰も来ないよ」
キャンドルの火が、ぷるぷると揺れた。
2:凛太朗の脱出作戦
凛太朗は、ついに訪れた童貞喪失の危機に対する恐怖の表情を浮かべた。
気が動転したのか、なぜか絶海の孤島の殺人事件に巻き込まれた参加者のようなセリフを吐く。
「こんなところに居られるか!俺は帰るぞ!」
ガタッ!
凛太朗は、椅子を蹴る勢いで立ち上がった。
ドアに向かって走る——が。
ガチャガチャガチャ!
「……開かない!?」
ドアは、しっかりと施錠されていた。
(くそっ!やっぱ正面突破は無理か……。こうなったら……)
凛太朗は、振り返って璃々花を見た。
璃々花は口角を上げてニマニマしながら、凛太朗を見つめている。
(璃々花さんを俺のペースに巻き込んで、この甘い雰囲気をうやむやにすれば、俺にも勝機はある……!)
【回想:第2話、生徒会室での攻防】
莉子は、目まぐるしくキャラを変えて璃々花を翻弄した。
泣き虫キャラ、真面目キャラ、ギャル莉子——
璃々花は、その度に動揺(興奮ともいう)していた。
(困った時の頼み……それは、意外性のあるキャラ変だ!)
凛太朗は、急に左手を右手で掴みながら——低い声で呟いた。
「……くっ、鎮まれ……俺の左手……!」
ズィーーッ……
凛太朗は震える手でテーブルの上のティーポットを傾けて、紅茶をティーカップに注いだ。
そして厨二病に侵された虚ろな目で、璃々花を睨んだ。
「あんた……俺をどうするつもりだ?まさか、俺の《最初の衝撃—ファースト・インパクト—》をこんなところで奪う気じゃねぇだろうな……?」
凛太朗はカップをソーサーにカチンと置いて、指でくるくる回した。
「俺はな、界隈では《力を持つ者—アウェイクン—》って呼ばれてるんだぜ……」
ドヤ顔で続ける。
「……まぁ、ネットで自称してるだけだがな」
璃々花は、一瞬ぽかーんとして……
「プッ……ククク……あはははははは!!」
テーブルに突っ伏して爆笑した。
「やばい、めっちゃウケる!!厨二病で自称って最高にかわいいんだけど!!」
璃々花は涙を拭きながら立ち上がって、凛太朗の隣にぴったり座った。
「ねぇ、厨二病の患者さん♡……私を、どうしたい?」
璃々花は、凛太朗の手を取って——自分の頬に当てた。
顔を真っ赤にしてガタガタ震える凛太朗。
「う、うるせぇ……!俺は……俺は……」
璃々花は、耳元で甘く囁いた。
「紅茶、もう冷めてるよ?……代わりに、私の体温で温めてあげよっか?」
「ひぃぃぃぃ!!」
完全に死亡フラグ。
キャラ変で翻弄作戦は、秒で崩壊した。
璃々花は、もう抱きついて離さない。
「もうダメ♡かわいすぎて今日は帰さない♡」
凛太朗、完全に璃々花の餌食確定!!
3:泣き落とし作戦
凛太朗は、急に作戦変更した。
ぱちぃ……と大粒の涙をためて—— 子ネコのようなつぶらな瞳で璃々花を見上げた。
「お姉ちゃん……怖い……。莉子、泣いちゃう……。うぅ……」
ぽろっ、ぽろっ。
完璧に計算された涙が、頬を伝う。
【回想:凛太朗——中学1年、文化祭のメイド喫茶】
「うわああ!超かわいい!」
「写真撮らせて!」
凛太朗は、メイド服を着て——涙目で客たちを見つめた。
「あの……恥ずかしいです……」
客たちは、さらに興奮した。
「か、かわいすぎる……!」
(どうだ!この俺の最強かわいい攻撃!これで母性を刺激して手出しできまい!完璧だ!!)
数秒の沈黙。
璃々花の瞳が——ガラッと変わった。
「………あ……?」
呼吸が荒くなり、顔が真っ赤になる。
「だ、ダメ……!!そんな顔されたら……私……もう我慢できない……!!」
ガバッ!
璃々花は突然、凛太朗をぎゅーーーっと抱きしめて、そのままソファに押し倒した。
「凛太郎……大丈夫、大丈夫だよ……お姉ちゃんが全部守ってあげるから……怖いことなんて、もうしない……♡」
(……え?待って?逆効果!?完全にヤバいやつ目覚めてる!!)
璃々花は涙目で頬ずりしながら続けた。
「泣かないで……?泣いてる凛太郎がかわいすぎて……私、もう理性が……!!」
そして凛太朗の頭を——自分の胸にぐいっと押し付けた。
「むぐっ!?」
完全に逆効果。
泣き落とし作戦、大失敗。
母性と欲望のダブルパンチで、捕食される寸前!!
璃々花は、甘々と囁いた。
「もう……今日は絶対帰さないからね?凛太郎の全部、私にちょうだい……♡」
凛太朗、最大のピンチ到来!!
4:最後の切り札
凛太朗は、顔を璃々花の胸にぐいぐい押し付けられたまま……
(まずい……このままじゃ意識が……。柔らかすぎる……匂い良すぎる……酸素が甘すぎる……。俺、完全に溶ける……!)
しかし、ここで最後の理性がピンと閃いた。
(……この手は使いたくないが……これしかない……!)
凛太朗は、むぎゅっと顔を埋めたまま——そっと右手を璃々花の左耳の後ろへ滑らせた。
指先があの”ハート型のほくろ”に、ピタリと触れた。
璃々花が目を見開いて体を硬直させる。
「──────っ!?」
ビクンッ!!!
【回想:第5話、生徒会室での攻防】
凛太朗は、急に声のトーンを落として、クスッと笑った。
「ねぇ……ちょっと耳、見せてくれる?」
「は?なに急に……」
凛太朗の指先が、サッと璃々花の黒髪をかき上げて、耳の裏に触れた。
指が、ハート型のほくろにぴったり当たる。
「────っ!?」
ビクンッ!!
璃々花の全身が電撃を受けたように跳ねて、その場に膝をついた。
「ひゃうっ……!?な、なに……今の……!?」
璃々花の顔が一瞬で真っ赤になり、瞳がうるうるしている。
璃々花の全身が電気ショックを受けたように跳ね上がり——抱きしめる力が一瞬でゼロになった。
「ひゃうぅぅぅっ……!!♡だ、だめ……そこだけは……!!」
璃々花の顔が真っ赤になって、力が抜けてソファに崩れ落ちた。
凛太朗は、顔を上げてニヤリと笑った。
「ふぅ……危なかった……」
今度は凛太朗が上に乗っかる形になった。
「……これで、形勢逆転だ」
小悪魔スマイルで璃々花を見下ろす。
「お姉ちゃん……今度は莉子が怖いことしてあげよっか?」
指で璃々花のほくろをくるくる撫でる。
「や……やめて……あっ……♡声……出ちゃう……!!」
凛太朗は、耳元で囁いた。
「1時間、誰も来ないんだよね?……じゃあ、ゆっくり遊ぼうか、璃々花お姉ちゃん♡」
キャンドルの火が——勝者と敗者の影をゆらゆらと揺らした。
5:禁断の追撃
凛太朗は上に乗ったまま、ほくろをくにゅくにゅ撫でながら続けた。
「ほらほら〜、こんなので感じちゃうの?ざっこ〜♡氷雪女王が、耳だけでこんなにビクビクしちゃって……。めっちゃエロい声出てるよ?璃々花お姉ちゃん♡」
璃々花は、涙目で全身をガクガクさせた。
「や……だめ……もう……声……止まらな……イク……イク……」
凛太朗は、さらに指を動かした——
「イッちゃうぅぅぅぅぅ!!!」
ドンッ!!
璃々花の足が無意識にテーブルを叩いた。
「いっくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!♡♡♡」
その絶叫が、完全密室を突き抜けて——廊下にまで響いた。
次の瞬間。
ガチャッ!!
店員が、顔面真っ青でドアを勢いよく開けた。
「お客様!?どうなさいましたか!?」
店員の視界に飛び込んできた光景は——
・ソファに仰向けでアヘ顔+涙とよだれでぐちゃぐちゃの璃々花
・その上に馬乗りになってニヤニヤしてる超絶美少女(凛太朗)
・二人が完全に絡み合ってる(ように見える)構図
店員は一瞬固まって……即座にプロフェッショナルスイッチを入れた。
「お客様!!ここはそのような行為のための場所ではございません!!!即刻ご退店願います!!」
「え、ちょ、待って?誤解ですって!!」
凛太朗は慌てて弁解したが、璃々花はまだビクビク痙攣しながら——
「あ……あへ……♡」
店員は、完全に無表情で言った。
「お荷物は後でお届けいたします。こちらへどうぞ」
10秒後。
銀座の夜の歩道に……
ポンッ!
二人が放り出された。
6:夜の街へ
【銀座・歩道 19:25】
凛太朗は髪を乱して、呆然と立っていた。
「……マジで追い出された……」
璃々花は顔を真っ赤にしてフラフラしながら——でもなぜか緩み切った満面の笑みを浮かべていた。
「……ふふ……♡凛太朗……すごかった……」
「いや俺は何もしてないからな!?耳撫でただけだからな!?」
通行人がチラチラと二人を見ている。
璃々花は、ふらっと凛太朗の腕にしがみついた。
「……次は、もっと静かな場所にしよ?今度は……本当に最後まで、ね?♡」
「ちょ、ちょっと待て!俺まだ心の準備が——!!」
こうして、二人の伝説のデートは「銀座の高級フレンチで強制退店」という最強の黒歴史を残して——夜のネオン街に消えていった。(つづく)




