第7話:Hang out
1:待ち合わせ
【デート当日・土曜日 10:55 東京駅 丸の内口前】
赤レンガの駅舎が、青空の下で美しく輝いている。
待ち合わせ場所は、その正面。
指定時間は、11:00ジャスト。
璃々花からの最後通告——『1分でも遅れたら罰ゲームだからね♡』
凛太朗は、莉子モード・フル装備で待っていた。
白のふわふわニットワンピに、ピンクのショートコート。
髪は、ツインテールに大きめリボン。
手には、「カップル専用」として事前に渡された小さな紙袋。中身は、璃々花指定のペアルック小物。
(遅刻したら次回の健康診断は全裸測定って言われたし……マジで1秒も遅れられない……!)
【回想:金曜日の夜、姉・美玲とのビデオ通話】
「凛太朗、明日のデート、服決めた?」
「うん……これで大丈夫かな……」
凛太朗は、画面越しに服を見せた。
「かわいい〜!璃々花ちゃん、絶対喜ぶよ!」
「でも……俺、ちゃんとデートできるかな……」
「大丈夫大丈夫!あ、でもさ——」
美玲は、ニヤリと笑った。
「璃々花ちゃん、絶対何か仕掛けてくると思うから、覚悟しときなよ?」
「……え?」
「だって、あの子……凛太朗のこと、本気で狩りに来てるもん♡」
凛太朗は、顔面蒼白になった。
10:58。
まだ、璃々花の姿は見えない。
周囲の観光客が、莉子を見て——ざわついた。
「え、あの子モデル!?」
「かわいすぎる……」
スマホを向けてくる人もいる。
莉子は、少し恥ずかしそうに俯いた。
(璃々花さん……まだかな……)
10:59。
莉子は、腕時計を確認した。
あと1分。
心臓が、激しく鳴っている。
(ていうか、俺の方が先に着いてるのかよ……璃々花さん、遅刻する気か!?)
11:00ジャスト。
カツ、カツ、カツ……。
背後から、ヒールの音が聞こえた。
莉子が振り返った瞬間——
そこには、璃々花がいた。
私服フルスペック。
黒のタイトニットに、チェック柄ミニスカート、ロングブーツ。
髪は、ゆる巻きダウンスタイル。
手には、莉子と同じデザインの小物が入った、ペアルック紙袋。
璃々花は腕時計を確認して、ニッコリと笑った。
「ふふ、ちゃんと来てたわね。偉い偉い♡遅れたら駅前で土下座させて靴にキスさせるつもりだったのに」
「そ、そんな罰ゲーム聞いてない!!っていうか、璃々花さんもギリギリじゃん!」
「あら、ギリギリセーフよ?1秒でも余裕があれば問題なし♡」
璃々花は、急に距離を詰めて莉子の手をぎゅっと掴んだ。
「じゃあ、早速ルール確認ね」
璃々花は、指を絡めてきた。
「今日一日、手は絶対離さない。写真は最低50枚。そして……」
璃々花は、紙袋からペアグッズを取り出した。
黒とピンクのヘアピン、そしてハート型キーホルダー。
「全部つけてくれるよね?凛太朗……じゃなくて、今日はずっと”莉子ちゃん”でいてね♡」
「ちょ、これ全部つけるの!?ちょっと派手すぎない!?」
「何言ってるの。カップルなんだから当然でしょ?」
そして——突然。
カシャッ!
璃々花は、いきなりセルフィーで二人を激写した。
「1枚目!東京駅前でカップル記念撮影♡……ほら、莉子ちゃんもピースして?」
「え、ちょ、待って!心の準備が……」
カシャカシャカシャ!
「2枚目、3枚目、4枚目〜!」
「早い早い!璃々花さん、連写しすぎ!!」
周囲の観光客が、ざわついた。
「え、カップル!?」
「めっちゃ美人同士じゃん!」
「百合カップルだ!尊い……!」
莉子は、完全に逃げ場なしのデートスタートに顔を真っ赤にした。
璃々花は、耳元で囁いた。
「今日はね、私が全部決めてるから……覚悟しててね、莉子ちゃん♡」
(うわあああ……姉ちゃんの言った通りだ……!)
2:ピクニック
【11:30 皇居外苑】
璃々花と莉子は、手を繋いだまま皇居外苑を歩いていた。
璃々花が用意していたのは、ピクニックバスケット。
「ここで、ちょっと休憩しましょう」
璃々花は、芝生の上にレジャーシートを敷いた。
「璃々花さん……これ、全部用意してたの?」
「当たり前でしょ?今日は、私が莉子ちゃんを完璧にエスコートするって決めてるんだから」
璃々花はバスケットからサンドイッチ、フルーツ、そしてジュースを取り出した。
「はい、莉子ちゃん。あーん♡」
「え……?」
「食べさせてあげる」
璃々花は、サンドイッチを莉子の口元に運んだ。
「ちょ、ちょっと!自分で食べられるから!」
「ダメ。今日は、私が莉子ちゃんの彼女だから」
璃々花は、ニッコリと笑った。
「……璃々花さん、楽しんでるでしょ」
「当然♡」
莉子は恥ずかしそうに、サンドイッチを一口食べた。
「……おいしい」
「でしょ?今朝、頑張って作ったんだから」
璃々花は、満足げに微笑んだ。
【回想:璃々花——土曜日の早朝】
璃々花は、自宅のキッチンでサンドイッチを作っていた。
「凛太朗……喜んでくれるかな……」
璃々花は、一つ一つ丁寧に——形は不揃いだが——具材を挟んでいく。
「今日……ちゃんと、私の気持ち、伝えられるかな……」
璃々花の頬が、わずかに赤く染まった。
「璃々花さん……ありがとう」
莉子は、小さく微笑んだ。
璃々花は、莉子の頬に——そっとキスをした。
「え……!」
「5枚目♡ピクニックでほっぺにキス」
璃々花は、スマホで写真を撮った。
「璃々花さん!」
「何?ルール通りでしょ?キス写真も含むって言ったじゃない」
璃々花は、悪戯っぽく笑った。
莉子は、顔を真っ赤にして俯いた。
(璃々花さん……本気だ……)
莉子がサンドイッチを見つめながら、反撃の狼煙をあげる。
「でも……璃々花さん、これ……具がめっちゃはみ出てない?」
「え?」
「ほら、レタスがこんなに……あ、トマトも落ちそう……」
璃々花は、顔を赤くした。
「……不器用で悪かったわね」
「いや、悪いとは言ってないけど……」
「もういい!次!」
璃々花は、慌てて次のサンドイッチを取り出した——が。
「あれ……?これ、パンの耳で挟んである……。向き逆じゃない?」
「う、うるさい!!」
璃々花は顔を真っ赤にして、莉子の口にサンドイッチを押し込んだ。
「もぐもぐ!?」
「ほら、早く食べて!」
「ちょ、待っ……!」
周囲の通行人たちが、クスクス笑いながら見ていた。
「あのカップル、微笑ましいね〜」
「キマシ……!百合カップル、かわいすぎる……」
莉子は顔を真っ赤にして、サンドイッチを飲み込んだ。
「璃々花さん……もう少し落ち着いて……」
「……ごめんなさい。ちょっと張り切りすぎちゃった」
璃々花は、恥ずかしそうに俯いた。莉子は、そんな璃々花の頭をそっと撫でる。
「でも……嬉しいよ。璃々花さんが、俺……私のために頑張ってくれて」
璃々花は、顔を上げて莉子を見つめた。
「……凛太朗」
「ん?」
「……ありがとう」
璃々花は、小さく微笑んだ。
カシャッ。
「あ、いい写真撮れた♡6枚目〜!」
「え、今撮ったの!?」
「当然♡」
璃々花は、また悪戯っぽく笑った。
莉子は苦笑しながら内面で呟く。
(璃々花さん……やっぱり、容赦ない……)
3:ショッピング
【13:00 銀座】
璃々花と莉子は、手を繋いだまま銀座の街を歩いていた。
「次は、ショッピングよ」
「ショッピング……?」
「莉子ちゃんに、かわいい服を選んであげる♡」
璃々花は、高級セレクトショップへ莉子を連れて行った。
「いらっしゃいませ」
店員が笑顔で二人を迎えた。
「こちらの子に、似合う服を見せてください」
璃々花は、莉子を指差した。
「かしこまりました」
店員は、いくつかの服を持ってきた。
ワンピース、ブラウス、スカート——どれも、高級そうなものばかり。
「璃々花さん……これ、値札見たくない……」
「気にしないで。今日は、私が全部出すから」
璃々花は、莉子の手を握った。
「莉子ちゃん、試着してみて?」
「う、うん……」
莉子は試着室へ向かう。
【試着室の中】
莉子は、鏡の前でワンピースに着替える。
淡いピンクのワンピース。
胸元にリボンがついていて、とてもかわいい。
(……似合うかな)
莉子は、鏡の中の自分を見つめた。
そこには——完璧な「女の子」がいた。
でも……
(俺は、凛太朗だ)
莉子は、自分に言い聞かせた。
(璃々花さんは……俺の何を見てるんだろう)
その時……
ガラッ!
試着室のカーテンが勢いよく開いた。
「璃々花さん!?」
「どう?似合ってる……って、ちょっと待って」
璃々花は、莉子をじっと見つめる。
「……リボン、曲がってる」
「え?」
「ほら、ここ」
璃々花が、莉子の胸元のリボンを直そうとして——手が、莉子の胸に触れた。
「……ッ!」
莉子の顔が一気に真っ赤になり、璃々花も固まった。
「……あ」
しばしの沈黙。
「ちょ、璃々花さん!?何してんの!?」
「い、いや!リボンを直そうとしただけで……!」
「試着室に勝手に入ってくるのがそもそもおかしいでしょ!?」
「だ、だって……早く見たかったから……」
璃々花は顔を真っ赤にして、慌てて試着室を出た。
外で待っていた店員が、ニコニコしていた。
「お二人、仲がよろしいんですね〜」
「ち、違います!これは……!」
莉子は慌てて否定したが、璃々花は堂々と答えた。
「ええ、とっても仲良しです♡」
「璃々花さん!?」
結局、莉子はそのワンピースを買ってもらうことになった。
璃々花がレジで支払いをしている間、莉子は小さなため息をついた。
(璃々花さん……本気で容赦ないな……)
しかし、顔は笑みを浮かべている。
(でも……嬉しいな)
莉子の胸が、温かくなった。
4:遊園地めぐり
【15:00 東京ドームシティ】
璃々花と莉子は、やはり手を繋いだまま、東京ドームシティを歩いていた。
「次は、観覧車に乗りましょう」
「あのでかいやつ……?」
「そう。カップルの定番でしょ?」
璃々花は、莉子を観覧車「ビッグ・オー」へ連れて行った。
「うわ……近くだと更にでかい……」
莉子は、観覧車を見上げた。
直径60メートルの巨大な観覧車。
「さ、行くわよ」
二人は、ゴンドラに乗り込んだ。
ゴンドラが、ゆっくりと上がっていく。
窓の外には東京の景色が広がっている。
「きれい……」
莉子は窓の外を見つめていた。
「ねぇ、莉子ちゃん」
璃々花が真剣な眼差しで、莉子の手を握った。
「何……?」
「今日……すごく楽しい」
璃々花は、まっすぐに莉子を見つめた。
「私、莉子ちゃんと一緒にいると……本当の自分でいられる気がするの」
莉子は、璃々花の目を見た。そこにはいつもの氷のような冷たさではなく、温かい光が宿っていた。
「璃々花さん……」
「莉子ちゃん……いえ、凛太朗」
璃々花は、凛太朗の頬に手を添えた。
「私……あなたのこと……」
凛太朗の心臓が、激しく鳴った。
「璃々花……さん……」
「ねぇ……キスしてもいい?」
璃々花が、ゆっくりと顔を近づけてくる。
凛太朗は心の中で——
(ま、また……キス……!?)
【回想:凛太朗——第5話、キスで腰を抜かした日】
チュ……
柔らかくて、少し震えている唇が触れた瞬間。
「………………!?」
ガクッ。
凛太朗の膝から力が抜けて、その場にへたり込んだ。
(また……腰抜かしちゃうかな……)
でも……今は、逃げたくなかった。
凛太朗は、目を閉じた。
璃々花の唇がゆっくりと近づいてくる。
あと数センチ——
その時。
ガタン!!
観覧車が、急に揺れた。
「え!?」
「きゃっ!?」
二人は、バランスを崩して……
ゴンッ!
おでこ同士がぶつかった。
「いたっ!!」
「痛い……!」
おでこを押さえる二人。
璃々花は、涙目になっていた。
「な、何今の……!?」
「多分……風で揺れたんじゃ……」
凛太朗も、おでこをさすった。
璃々花はしばらく黙っていた——が。
「ぷっ……あはははははは!!」
璃々花が、急に笑い出した。
「え……璃々花さん?」
「ご、ごめん……なんか、おかしくて……!」
涙を流しながら笑っている璃々花。
「せっかくのキスシーンが……おでこゴッツンで台無し……!」
凛太朗も、つられて笑い出した。
「あはは……確かに……」
二人は、しばらく笑い合った。
観覧車が、ゆっくりと頂上に到着した。
窓からは東京の景色が一望できる。
「きれいだね……」
「うん……」
二人は、並んで景色を見つめる。
璃々花は、凛太朗の肩にそっと頭を預けた。
「ねぇ、凛太朗」
「ん?」
「……また今度、ちゃんとキスさせてね?」
璃々花は、悪戯っぽく笑った。
凛太朗の顔が赤く染まる。
「え、えっと……その……」
「ふふ、冗談よ。……でも今度は、凛太朗からしてくれたら嬉しいな」
璃々花は、優しく微笑んだ。凛太朗が、璃々花を見つめる。
(璃々花さん……)
カシャッ。
璃々花が、スマホで二人を撮影した。
「観覧車でおでこゴッツン記念……これで、何枚目だっけ?」
「え、えっと……30枚くらい……?」
「まだまだね。あと20枚は撮らないと」
璃々花は、再び悪戯っぽく笑った。
凛太朗は苦笑しながら、一人独白する。
(璃々花さん……意外とキス魔なのかな……)
5:夕暮れのカフェ
【17:00 ラクーア】
璃々花と凛太朗は、相変わらず手を繋いだまま、ショッピングモールのラクーアを歩いていた。
夕陽が、街を赤く染めている。
「ねぇ、ちょっと休憩しない?」
璃々花はカフェを指差した。
「うん」
二人はカフェに入ると、璃々花はブラックコーヒー、凛太朗はカフェラテを注文した。
「ふぅ……疲れた……」
凛太朗は、椅子に座ってため息をついた。
「あら、莉子ちゃん、もうバテたの?」
「だって……璃々花さん、歩くの早いんだもん……」
「そう?私、普通だと思うけど」
璃々花はクスッと笑った。
凛太朗は、カフェラテを一口飲んだ。
「……美味しい」
「でしょ?ここ、私のお気に入りなの」
璃々花は神妙な面持ちで、凛太朗を見つめた。
「ねぇ」
「何?」
「今日……楽しかった?」
凛太朗は、璃々花を見つめ返す。
「うん……すごく、楽しかった」
凛太朗の素直な気持ちだった。
「本当?」
「本当」
凛太朗は、璃々花の手をそっと握った。
「璃々花さん……ありがとう」
璃々花は、少し驚いた表情をする。
「どうして……お礼を言うの?」
「だって……璃々花さん、今日一日、俺のために……色々準備してくれたんでしょ?」
凛太朗が真剣な表情で続ける。
「ピクニックのサンドイッチも、ショッピングも、観覧車も……全部、璃々花さんが一生懸命に考えてくれたんだよね」
璃々花は、頬を赤く染めた。
「……バレてた?」
「うん。サンドイッチの具もはみ出てたし」
「……!」
顔を真っ赤にして俯く。
「も、もう!そこ言わなくていいでしょ!」
「あはは、ごめんごめん」
璃々花は、むくれた顔で——凛太朗を見た。
「……凛太朗のバカ」
「ごめんって」
凛太朗は、璃々花の頭を優しく撫でた。
「……でも、嬉しい」
「え?」
「凛太朗が……私のこと、ちゃんと見ててくれて」
璃々花は凛太朗を見つめ、手を重ねる。
「私ね……ずっと、孤独だったの」
「……璃々花さん……」
「誰も、本当の私を見てくれなかった。だから、氷の仮面を被って……でも……凛太朗は、違った」
璃々花の声が、震えている。
「凛太朗は……私の本当の顔を、見てくれた」
凛太朗は、璃々花の手を握り返した。
「璃々花さん……俺も、同じだよ」
「え……?」
「俺も……ずっと、孤独だった。かわいいってチヤホヤされても、誰も本当の俺を見てくれなかった」
凛太朗は、璃々花を見つめた。
「でも……璃々花さんは、俺の本当の顔を見てくれた」
璃々花の瞳から一筋の涙がこぼれた。
「凛太朗……」
「だから……ありがとう」
凛太朗は、璃々花の涙を——そっと拭った。
璃々花は何も言わず、凛太朗に抱きついた。凛太朗がそっと璃々花を抱きしめ返す。
周囲の客たちが、微笑ましそうに見ている。
凛太朗は、顔を真っ赤にした。
(うわ……周りに見られてる……)
だが璃々花は、気にせず抱きついたままだった。
しばらくして、璃々花は顔を上げた。
「ねぇ、凛太朗……最後に、ディナー行かない?」
「ディナー……?」
「うん。高級レストラン、予約してあるの」
璃々花は、凛太朗の手を引いた。
「行きましょう」
「う、うん……」
二人は手を繋いだまま、レストランへと向かった。
6:レストランへの道
【18:30 丸の内・イルミネーション通り】
キラキラと光るシャンパンゴールドの街路樹が、二人を包むように輝いている。
手はちゃんと繋いだまま。
凛太朗は、ちょっと俯き加減で歩きながら、ぽつりと呟いた。
「……なぁ、璃々花さん」
璃々花が足を止めて、イルミネーションの光を浴びながら、まっすぐ見つめる。
「なんで……俺のこと……というか、莉子のことを好きになったの?」
風に揺れるツインテール。
瞳に映る無数の光が、少し震えている。
「最初から全部バレてたんでしょ?男だってことも、女子校に潜入した変態なところも…それでも、なんで……?」
璃々花は、最初は驚いたように瞬きをして、それから、ふっと優しい笑みを浮かべた。
手は離さない。
むしろ、ぎゅっと指を絡め直す。
「……バレてたから、だよ」
凛太朗の横顔を、イルミネーションに照らされながら見つめて。
「完璧な仮面を被ってる私に、最初から全部見透かされて、それでも逃げずに、私の仮面を剥がそうとしてくれた人なんて……凛太朗以外にいなかったから」
少しだけ声を落として。
「私、ずっと怖かったの。本当の自分を見せたら、嫌われるって。だから氷の仮面を被って、誰も近づけないようにしてた」
真剣な眼差しで続ける。
「でも凛太朗は……私の弱点を見つけても、笑わなかった。何度もぶつかって、それでも私のこと……ちゃんと見ててくれた」
顔を近づけて、額を軽くくっつける。
「だから、決めたの。この人にだったら、溶かされてもいいって」
イルミネーションの光が、二人の影を一つに重ねる。
璃々花が小声で、でも確かに。
「凛太郎だろうと莉子ちゃんだろうと、関係ないよ。……私が好きなのは、あなたそのものだから」
そして、そっと唇を凛太郎の頬に重ねる。
ほんの一瞬、優しいキス。
離れて、照れ臭そうに笑う。
「だから、もう逃げないでね?……私の、初めての本気なんだから」
凛太朗の瞳に、涙が一つ、こぼれ落ちた。
イルミネーションが、まるで祝福するように瞬いた。
【18:45 銀座・並木通り】
凛太朗は頬をぷくっと膨らませたまま、璃々花の横を小刻みに歩く。
顔は赤く、表情はツンデレ全開。
「もうっ、急にキスするなってば……!また腰抜かすところだったじゃん!」
腕を組んだまま、ちょっと顔を背ける。
璃々花がクスクス笑いながら、逆にぎゅーっと腕を引き寄せる。
「だって、凛太郎がかわいすぎて我慢できなかったんだもん♡……それとも、もっとしたい?」
「ち、違う!そういう問題じゃなくて!」
璃々花が耳元で甘い声を囁く。
「ふふ、顔真っ赤だよ?……腰、抜かさないように私が支えてあげようか?」
「や、やめろって!ここ、人通り多いんだから!」
ちょうどその時、目の前に現れたのは、璃々花が予約していた超高級フレンチレストラン「レトワール・ダルジャン(銀の星)」。
店員がドアを開けて出迎える。
「氷川様、お待ちしておりました。個室をご用意しております」
璃々花が凛太朗の手を離さずに、顔を向けてにっこり。
「今日は特別な日だから、個室でゆっくりね♡」
個室という思いがけない言葉に、凛太朗は内心でパニック。
(個室……!?……まさか、またキスとか、それ以上の……?やばい、心臓がもう限界ギリギリなんだけど!!)
店員に奥へと案内されながら、凛太朗は小声で呟く。
「……あのさ、個室って……カーテンとか、閉めちゃう感じ……?」
璃々花が悪魔の笑顔で。
「もちろん♡誰も来ない、二人きりの空間だから。凛太郎の好きにしていいんだよ?」
凛太朗の顔から血の気が引く。
(うわ、マジか……)
もう完全に逃げ場なしのディナータイム突入!!
次は個室で何かが起こる……!?(つづく)




