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【第9話】完成!純国産・玉鋼製トゲトゲ極悪メイス『慈愛号』

工房を埋め尽くしていた真っ白な水蒸気が、ゆっくりと晴れていく。


湯気の中心で、肩で息をする八兵衛が、両手でうやうやしく『それ』を掲げていた。


「お菊ちゃん……! ついに、ついに打ち上がったぞ! 俺の愛と玉鋼の結晶、お菊ちゃん専用の『めいす』だーーっ!!」


「わぁ、お疲れ様八兵衛! どれどれ、どんな風に出来たん……って、えっ!?」


八兵衛の手元を覗き込んだお菊は、思わずその場で固まった。


そこにあったのは、黒光りする太い鉄の柄の先に、美しい刃文(はもん)が浮かび上がった極太の八角形の鉄塊がつき、さらにその表面から日本刀の切っ先のような鋭いトゲが無数に突き出ている――いわば『西洋メイスと鬼の金棒の悪魔合体』のような代物だった。


しかも、八兵衛の妖術と玉鋼の魔力が融合したのか、トゲの先からは不気味な紫色のオーラがメラメラと立ち昇っている。


「……な、なあ八兵衛。これ、うちのステータス画面に出てた絵図より、トゲの数が三倍くらい多くない? それに、なんか禍々しい煙が出とるんやけど……!」


「ああ! お菊ちゃんの美しい手に万が一にも傷がつかないよう、近づく敵を確実に粉砕できる形状を追求したんだ! しかも、最高級の玉鋼を十本分も圧縮して鍛えたから、どんな名刀でも絶対に傷ひとつつかないぞ!」


『ふふふ……! お菊ちゃんへの愛を込めすぎて、うっかり俺の妖術まで練り込んでしまったが、これで害虫だろうが落ち武者だろうが、一撃でミンチにできるはずだ!』


《実況:フクザワ》「で、で、出たーーーっ!! 純国産・玉鋼製トゲトゲ極悪メイスの誕生だーっ! どこからどう見ても、魔王軍の幹部が持つ最終兵器にしか見えませーーんっ!!」


《解説:アベ》「これはですね、日本の伝統技術である『折り返し鍛錬』を鈍器に適用してしまった結果、世界のどこにも存在しないオーバースペックな撲殺兵器が誕生してしまったわけであります。刃文の美しさと、トゲの凶悪さのギャップが実にシュールでありますね」


工房の隅で見ていた親方の巌も、刀匠としての目でその鉄塊を見つめ、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


「ば、馬鹿な……! 形状こそ野蛮な金棒じゃが、あの地鉄(じがね)の輝きと密度は、間違いなく国宝級の業物(わざもの)じゃぞ……! しかし、あんな鉄の塊、重すぎて相撲取りでも持ち上がらんわい!」


「お菊ちゃん、ちょっと重くなってしまったが……持てるかい?」


八兵衛が心配そうに差し出すと、お菊はおそるおそる、その極悪メイスの柄に小さな両手を添えた。


その瞬間、お菊の体内でパチンッ! と『あるスキル』が起動する音が響いた。


【固有スキル:鈍器(メイス)術・極 が発動しました】

【筋力および物理破壊力が十倍に上昇します】


「……あっ、軽っ!! なにこれ、うちの畑の大根より軽いやんか!」


お菊はニコッと笑うと、大人三人でも持ち上がらないはずの超重量級メイスを、まるで羽毛の扇子でも扱うかのように、右手一本でヒョイッと持ち上げた。


そして、ブンッ、ブンッ! とその場で軽く素振りを始める。


ゴォォォォッ!! と、工房の空気が引き裂かれるような暴風が巻き起こり、親方と八兵衛の髪が後ろへなびいた。


「な、なんじゃこの風圧はーっ!? あの小娘、あの細い腕のどこにそんな怪力を隠し持っておったんじゃーっ!?」


「さすがはお菊ちゃんだ! あの重たい鉄塊を、あんなに可憐に振り回すなんて、まるで蝶が舞っているようだぞーっ!!」


「へへっ、これならうちでも余裕で使えそうやね! よし、ちょっと外で試し打ちしてみよっと♪」


お菊はルンルン気分で工房の裏庭へトコトコと歩いていくと、庭の真ん中に鎮座していた『漬物石の百倍はあろうかという巨大な庭石』の前に立った。


「えーっと、この大切な武器にも名前をつけたらなあかんね。聖女の武器なんやし……うん、今日からあんたの名前は『慈愛(じあい)号』や! ほな、いくでーっ、えいっ♪」


お菊が可愛らしい掛け声とともに、片手で『慈愛号』を軽く振り下ろした。


ドゴォォォォォンッ!!


落雷のような轟音が堺の街に響き渡り、次の瞬間、大人の背丈ほどあった花崗岩の巨岩が、跡形もなくサラサラの砂へと変わっていた。


《実況:フクザワ》「ジャストミーーーート!! 一撃! たった一撃の素振りで、庭の巨岩が完全に消滅したーっ! なんという物理破壊力! 名前は『慈愛号』なのに、やっていることは慈愛のかけらもなーーーいっ!!」


《解説:アベ》「これぞですね、聖女の固有スキルと玉鋼製メイスの相乗効果であります。鎧を着た武士であろうと、城の門であろうと、この『慈愛号』の前では豆腐も同然と言っても過言ではないわけでありますね」


粉々になった自慢の庭石を見て、親方の巌はガタガタと震えながらその場に土下座した。


「ひ、ひいいいいっ!! お、お菊様! さっきは女狐などと申して大変申し訳ございませんでしたぁぁっ! どうか、どうかわしの頭だけは慈愛しないでくだされぇぇぇっ!!」


「あら、親方様ったら大げさやなぁ。うちはか弱い聖女やから、悪い人にしかこんなことせえへんよ♪ ほんまにありがとうね、八兵衛!」


お菊が『慈愛号』を肩に担いでニコッと笑うと、八兵衛は鼻血を吹き出しながら「お菊ちゃんの笑顔にジャストミートされたぁぁっ!」と幸せそうに大の字に倒れ込むのだった。


《実況:フクザワ》「さあ、最強にして最凶のウェポン『慈愛号』を手に入れたお菊選手! もはや堺の街に敵なしだーっ!!」


《解説:アベ》「そして次回、応仁の乱を戦う東軍・細川方の先遣隊が堺の街へとやってくるわけであります。お菊さんにとっては、まさに『慈愛号』の絶好の試し打ち相手、いわば飛んで火に入る夏のカモネギでありますね」

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