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【第8話】ブラック鍛冶場・24時間戦えますか(回復魔法付き)

ゴォォォォッ!! と妖術の黒い炎がうなりを上げる『備前屋』の鍛冶場。


真っ赤に熱せられた最高級の玉鋼(たまはがね)を前に、八兵衛は大槌(おおづち)を高々と振り上げた。


「いくぞお菊ちゃん! 俺の魂と愛を、この一撃に込めるーーっ!!」


「うん、気張りや八兵衛! ほな、作業がはかどるように支援魔法かけとくね! 【筋力強化】【集中力極大化】、おまけに【俊敏強化】や!」


パアアアッ! と七色の光が八兵衛を包み込んだ瞬間、八兵衛の振るう大槌の速度が文字通り桁違いに跳ね上がった。


カンカンカンカンカンカンカンッ!!


通常の刀鍛冶なら「カーン、カーン」とリズムよく響くはずの槌音が、まるで機関銃の乱射のような凄まじい連続音となって工房中に轟き渡る。


工房の隅で縛り上げられたようにへたり込んでいた父・巌(いわお)は、その光景を見て目を白黒させた。


「な、なんじゃあのデタラメな槌さばきは!? 大槌の残像が十本くらい見えるぞ! あんな速さで玉鋼を叩き続けたら、ものの数分で腕の骨が砕けてしまうわい!」


《実況:フクザワ》「ファイヤーーーッ!! 八兵衛選手のハンマーが、ついに音速の壁を突破したーっ! 鍛冶場の温度も八兵衛選手のテンションも、すでに沸点を超えているぞーっ!!」


《解説:アベ》「通常の鍛造工程におきましては、数日かけてじっくりと鉄を鍛えるわけでありますが、お菊さんのバフによって、いわば十倍速の早送り再生のような状態になっているわけでありますね。もちろん、その分だけ肉体への負荷も十倍であります」


夜が更け、やがて東の空が白み始める頃。


八兵衛の全身は滝のような汗にまみれ、大槌を握る両腕からは「ミシミシッ」と限界を訴える嫌な音が鳴り響いていた。


「はぁ、はぁ……っ! さ、さすがは幕府献上用の玉鋼だ……! 普通の刀の十倍の量を一気にまとめているから、腕が千切れそうだぜ……!」


「あ、ほんまやね、ちょっとペース落ちてきたんちゃう? ほな、はい!【極大治癒(エクストラ・ヒール)】っと♪」


お菊は眠そうな目をこすりながら、八兵衛の背中にペタッと手を当てて回復魔法を流し込んだ。


キラリーン☆という爽やかな音とともに、八兵衛の溜まりに溜まった疲労、筋肉痛、そして睡眠不足までもが一瞬にして綺麗さっぱり消滅する。


「……ハッ!? なんだこれは!? 一晩中ハンマーを振り続けていたはずなのに、まるで今朝起きたばかりのように体が軽いぞ!!」


「ふふっ、うちの回復魔法にかかれば、徹夜の疲れなんか秒で吹き飛ぶからね! ほな八兵衛、休憩なしでそのまま朝まで突っ走ろっか!」


お菊がニッコリと小悪魔の微笑みを向けると、八兵衛は血走った目をキラキラと輝かせて歓喜の雄叫びを上げた。


「うおおおおおっ!! お菊ちゃんの魔力が、俺の傷ついた筋肉の繊維一本一本に染み渡っていく……! なんて優しいんだお菊ちゃんは! 俺は今、世界で一番幸せな鍛冶屋だーーーっ!!」


『ああっ、疲れたらお菊ちゃんに癒やしてもらえるなんて、実質、夫婦の晩酌みたいなものじゃないか!? よし、もっと疲れよう! 死ぬほど働いて、お菊ちゃんの魔力を限界まで浴びるぞーっ!!』


ドガガガガガガッ!! と、先ほどよりもさらに速い、もはや轟音と化した槌音が朝の堺の街に響き渡った。


《実況:フクザワ》「おーっと、これはいけません! 疲労を回復魔法で強制リセットし、休憩ゼロで二十四時間働かせる! 鍛冶場が完全に暗黒のブラック工場と化しているーっ!!」


《解説:アベ》「まさにですね、栄養ドリンクを点滴しながらフルマラソンを走らせるような、恐るべき労務管理であります。しかし、当の労働者である八兵衛さんが『実質、夫婦の晩酌だ』などと意味不明な供述をして歓喜している以上、誰にも止められないわけでありますね」


その人間離れした光景を、親方の巌は顎が外れんばかりに口を開けて見つめていた。


「い、一晩中、水すら飲まずに大槌を振り続けとる……!? あの娘の力も化け物じゃが、うちのバカ息子の体力と執念も、もはや人間の領域を超えておるぞ……!」


そして、太陽がすっかり高く昇った正午過ぎ。


「お菊ちゃーーーんっ!! 最後の仕上げだ! 行くぞぉぉぉーーっ!!」


八兵衛が渾身の力を込めて、真っ赤に焼けた異形の鉄塊を、巨大な水槽へと一気に突き入れた。


ジュワアアアアアアアッ!!


凄まじい水蒸気が工房の天井まで噴き上がり、視界が真っ白に染まる。


湯気の向こうで、お菊はワクワクと両手を組み合わせて、自分の専用武器が姿を現すのを待っていた。


《実況:フクザワ》「さあ、二十四時間ぶっ通しの限界鍛造が今、フィニッシュを迎えたーっ! 湯気の向こうから現れるのは、果たしてどんな凶器なのかーっ!?」


《解説:アベ》「次回、戦国時代の日本に、決して存在してはならない『純国産・玉鋼製メイス』が爆誕するわけであります。どうぞご期待ください、ということであります」

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