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【第7話】刀鍛冶の誇り?お菊ちゃんの笑顔の前にはクズ同然だ!

カーン! カーン! と澄んだ槌音が響き渡る、堺の刀鍛冶街。


その中でもひときわ大きな構えを誇る名門『備前屋(びぜんや)』の工房へ、八兵衛はお菊を連れて勢いよく飛び込んだ。


「親父! いるか親父! 最高級の『玉鋼(たまはがね)』をありったけ出してくれーっ!!」


炉の前で刀身を睨みつけていた筋骨隆々の大男――八兵衛の父であり、備前屋の親方である巌(いわお)が、ギロリと鋭い眼光で振り返った。


「なんじゃ八兵衛、騒々しい! 洗礼式で『妖術師』を授かったと聞いておったが、いきなり玉鋼を出せとはどういう風の吹き回しじゃ! ついに名刀を打つ気になったか!」


「いや、刀じゃない! 俺はこれから、お菊ちゃんのために『めいす』を打つんだ!」


八兵衛は胸を張り、お菊に教えてもらった通りに、炭で半紙に描いた『トゲトゲの鉄球棒』の絵図を親方の目の前にバンッと突きつけた。


親方はその絵図をじっと見つめ……三秒後、顔を真っ赤にして大噴火した。


「ば、ば、馬鹿者ぉぉぉっ!! なんじゃこの野蛮なトゲトゲの鉄塊はーっ!? まるで鬼の金棒ではないか! 我ら誇り高き刀匠一族が、刃すらついておらんこんな鈍器を打てるわけがなかろうがーっ!!」


《実況:フクザワ》「おーっと、親方・巌(いわお)選手、当然のブチ切れだーっ! 室町時代から続く名門刀匠に『トゲトゲの鈍器を作れ』は、さすがに地雷にジャストミートだーっ!!」


《解説:アベ》「ええ、日本の刀鍛冶におきましては、日本刀は武士の魂であり、芸術品でもあるわけであります。それをですね、『玉鋼を溶かして鉄の塊にしろ』というのは、最高級の神戸牛をミンチにしてハンバーグを作れと言うようなもので、親方さんが激怒するのも無理からぬことでありますね」


親方はお菊の方をジロリと睨みつけ、忌々しそうに腕を組んだ。


「だいたい、そこのお菊とかいう娘! さっき町人どもから噂で聞いたぞ、洗礼式で奇妙な横文字を出して、神主様から銭を巻き上げたらしいな! うちの次男をたぶらかして、名門・備前屋の名に泥を塗る気か!」


『けっ、器量は可愛らしい顔をしておるが、うちのバカ息子を鼻の下を伸ばさせて操るとは、とんだ女狐じゃわい!』


親方の怒鳴り声に、お菊は「うっ、さすがは頑固親方や、手強いわね……」と内心で舌打ちをした。


しかし、親方がお菊を睨みつけた瞬間、八兵衛の全身から第3話の時と同じ『黒い妖気』がゴォォォッ! と噴き上がった。


「……親父。今、俺のお菊ちゃんを悪く言ったな? 刀匠の誇りだかなんだか知らんが、お菊ちゃんの頼みを断るような家なら、今日限りで親子の縁を切るぞ!!」


「な、なんじゃとぉ!? 貴様、たかが女一人のために、先祖代々の誇りを捨てる気かーっ!?」


「たかが女だと!? 訂正しろ親父! お菊ちゃんはただの女じゃない、俺の生きる意味そのものだ! お菊ちゃんの笑顔の前では、刀匠の誇りなど鉄クズ同然だーーーっ!!」


《実況:フクザワ》「ファイヤーーーッ!! 八兵衛選手、実の父親を相手に堂々のクズ発言だーっ! 先祖代々の刀匠たちが墓の下で泣いているぞーっ!!」


《解説:アベ》「これほどまでにですね、清々しいまでの親不孝というのも珍しいわけであります。しかし、本人が大真面目に『お菊さんは生きる意味だ』と断言しているあたり、もはや洗脳を通り越して一つの宗教として完成している観がありますね」


あまりのバカ息子っぷりに、さしもの頑固親方も「お、お前という奴は……!」と頭を抱えてよろめいた。


ここで、お菊がすかさず一歩前に出て、しおらしく眉を下げて親方に頭を下げた。


「お、親方様、堪忍してください……! うちが八兵衛に無理を言うたせいで、親子喧嘩なんかさせてしもうて……。やっぱり、こんな難しい異国の武器、ほかの鍛冶屋さんに頼んでみます……」


お菊はチラリと八兵衛の方を見やり、今にも泣き出しそうなか細い声で呟いた。


「ほんまは……うち、世界で一番腕が良くてかっこいい八兵衛が打った武器で、自分の身を守りたかったんやけどなぁ……ぐすっ」


その一言が、八兵衛の鍛冶職人としての魂と、重度の恋愛脳の双方にクリティカルヒットした。


「お、お菊ちゃん!! 他の鍛冶屋なんかに行かないでくれ!! 世界一かっこいいこの俺が、今すぐここで世界一のメイスを打ってみせるからーーっ!!」


八兵衛は親方をヒョイッと脇へ押しやると、工房の奥から最高級の玉鋼の箱を強引に引っ張り出し、炉の火を妖術でボォォォッ! と最大火力に燃え上がらせた。


「あ、こら八兵衛! それは幕府の重鎮に頼まれておった特上の玉鋼じゃぞ! やめんかーっ!!」


「うるさい親父、そこをどけ! 俺の鍛冶魂は今、お菊ちゃんのためだけに燃え上がっているんだーっ!!」


親方が「うちの次男が女狐にたぶらかされたぁぁぁっ!!」と工房の隅で泣き叫ぶのを尻目に、お菊は炉の前でペロリと舌を出して微笑んだ。


『よっしゃ、材料も場所も確保完了や! ほな八兵衛、せっかくやし今日中に仕上げてもらおっか♪』


《実況:フクザワ》「さあ、親方の制止を振り切り、工房を完全占拠したお菊&八兵衛コンビ! ここから前代未聞のメイス鍛造が始まるぞーっ!!」


《解説:アベ》「次回、聖女の支援魔法を悪用した、不眠不休・二十四時間ぶっ通しのブラック鍛冶場が幕を開けるわけであります。どうぞご期待ください、ということであります」

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