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【第10話】細川軍の先遣隊、堺へ!最初のカモがやってきた

『慈愛号』が完成した翌日の昼下がり。


お菊と八兵衛が堺のメインストリートである大通りを歩いていると、前方の広場から町人たちの悲鳴と怒号が聞こえてきた。


「な、なんだお菊ちゃん、あっちが騒がしいぞ! 危ないから俺の後ろに隠れるんだ!」


「んー? なんやろ、ちょっと覗いてみよっか」


二人が人だかりの隙間から広場を覗き込むと、そこにはピカピカの甲冑に身を包んだ数十人の侍たちと、その中央で白い狩衣(かりぎぬ)をまとった気障(きざ)な青年が、馬の上から町人たちを見下ろしていた。


《実況:フクザワ》「さあ、平和な堺の街に突如として現れた武装集団! 掲げている旗印は、応仁の乱の東軍大将・細川勝元の『九曜紋(くようもん)』だーっ!!」


《解説:アベ》「ええ、現在、京都におきましては細川軍と山名軍が激しい市街戦を繰り広げているわけであります。その戦費や武器を調達するため、豊かな商人の街であるここ堺に、細川軍の先遣隊が乗り込んできた、という状況でありますね」


馬上の青年――細川軍の部隊長であり、都でも名高いエリート陰陽師の賀茂晴明(かものはるあき)は、扇子で口元を隠しながら冷酷に言い放った。


「ええい、黙れ下賤の町人ども! 我ら細川軍が京の都で逆賊・山名と戦っておるからこそ、貴様らはこうして商いができるのではないか! ありがたく思い、今すぐ店の有り金と武器をすべて献上するでおじゃる!」


「そ、そんな無茶な! これを全部持っていかれたら、俺たちは明日からどうやって暮らせばいいんでい!」


果物屋の店主が泣きつくと、晴明の護衛の侍が刀の柄で店主の肩を乱暴に殴りつけた。


「うるさい! 名門・賀茂家の天才陰陽師であられる晴明様に口答えするか! 逆らう者は、見せしめに店ごと焼き払うぞ!」


『フン、堺の町人など、少し脅せばいくらでも小判を吐き出す打ち出の小槌よ! ここでたんまり軍資金を集めて、京の本陣でわしの手柄にしてくれるでおじゃる!』


町人たちが恐怖に震え、しぶしぶ銭箱を差し出そうとする、その様子を物陰から見ていた八兵衛が、正義感に燃えて拳を握りしめた。


「くそっ、細川軍の先遣隊め! 戦いに関係のない堺の町人から無理やり金を奪うなんて、許せないぞ!」


しかし、その隣でお菊は、まったく別の意味で目をキラキラと輝かせていた。


お菊の視線は、苦しむ町人……ではなく、晴明の馬の鞍(くら)にぶら下がっている『パンパンに膨らんだ金襴(きんらん)の巾着袋』と、侍たちが着ている『高級そうな甲冑』に釘付けになっていたのだ。


「……なあ八兵衛、見てみぃや。あの白い服を着た気障なお兄ちゃんの袋、小判がぎっしり詰まっとる音がするで! それに、周りの侍さんたちが着とる鎧も、堺の古道具屋に売ったらすごい値段になりそうやわ!」


「えっ? あ、ああ、さすがは細川本軍のエリート部隊だな、すごくいい装備をしているぞ!」


お菊はペロリと舌なめずりをすると、背中に背負っていた風呂敷包みを解き、黒光りするトゲトゲの鉄塊――『慈愛号』をズルリと引き抜いた。


『ふふふっ……! 町のみんなから無理やりお金を巻き上げるような悪い奴らやもん、うちが全員ボコボコにして、そのお金と鎧をぜーんぶ没収しても、誰にも文句は言われへんよなぁ!? 神主様のお布施に続く、第二のボーナスステージ到来や!!』


《実況:フクザワ》「おーっと! 八兵衛選手は義憤に駆られているが、お菊選手の瞳は完全に『$(ドル)マーク』だーっ! 細川軍の精鋭部隊が、お菊選手の目には『歩く高級財布』にしか見えていなーーーいっ!!」


《解説:アベ》「まさにですね、悪党から金を奪うことは善行である、というお菊さん独自の道徳観が遺憾なく発揮されているわけであります。動機が百パーセント金銭欲であったとしても、結果として堺の街を救うことになるのですから、世の中わからないものでありますね」


お菊は『慈愛号』をかるがると肩に担ぐと、八兵衛の背中をバシッと叩いた。


「よっしゃ八兵衛! 町のみんなを守るために、あの悪いお侍さんたちを成敗しにいくで! もちろん、連中が持っとるお金と装備は、うちらの『世直し手数料』としてきっちり回収するからな♪」


「おおっ、さすがはお菊ちゃんだ! 町のみんなのために立ち上がるなんて、まさに女神様だぞーっ!!」


『ああ、なんて慈悲深くて正義感にあふれたお菊ちゃんなんだ……! よし、お菊ちゃんの世直し(と小遣い稼ぎ)のために、あいつら全員まとめて吹き飛ばしてやるぞ!』


お菊は満面の営業スマイルを浮かべると、怯える町人たちの間を割って、細川軍の真ん前へと堂々と歩み出た。


「ちょっと待ちぃや、そこのお公家さんみたいなにいちゃん! 人の街で勝手にカツアゲしたらあかんよ! ここらへんの取り立ては、うちの専売特許なんやからね!」


《実況:フクザワ》「さあ、細川軍の前に仁王立ちしたお菊&八兵衛コンビ! 言うに事欠いて『カツアゲは自分の専売特許だ』と堂々の縄張り宣言だーっ!!」


《解説:アベ》「次回、都のエリート陰陽師・賀茂晴明の誇る『式神』と、お菊さんの西洋聖女スキルが真っ向から激突するわけであります。和風ファンタジーの常識がまた一つ粉砕される第11話に、どうぞご期待ください、ということであります」

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