【第14話】山名軍の猛将・赤鬼登場!どっちが本物の鬼か決めようじゃないの
細川軍の先遣隊をふんどし一丁で京へ追い返してから、三日後のこと。
堺の街の入り口にある大門が、ドゴォォォンッ!! と凄まじい音を立てて内側から蹴り破られた。
「ガハハハハハッ!! ここが黄金の街・堺か! 細川の弱虫どもが町娘ごときに負けたと聞いて、この俺様が直々に乗り込んでやったぞーーっ!!」
土煙の中から現れたのは、真っ赤な甲冑に身を包み、丸太のような鉄の金棒を担いだ身長二メートルを超える巨漢の武将と、五十人の荒々しい山名軍の精鋭たちだった。
《実況:フクザワ》「さあ、やってまいりました第14話! 東軍・細川に続き、今度は西軍・山名宗全が誇る最強の猛将、『山名の赤鬼』こと赤松鬼十郎が堺に乱入だーっ!! そして解説席には、ようやくコイズミ2世氏にお引き取りいただき、今日から新解説員の『イッシーバ』氏にお越しいただいております!」
《解説:アベ》「ええ、コイズミ君のポエムには本当に胃が痛くなったわけでありますが……って、ちょっと待っていただきたい! なぜ私の隣にイッシーバ君が座っているんでありますか!? 一番呼んではいけない人を呼んでどうするんでありますか!」
《解説:イッシーバ》「……んー、あのですね。今、門が壊れたわけでありますね。そもそもですね、門というものは『開ける』ためにあるのか、それとも『閉める』ためにあるのか。そこをですね、まず国民の皆様に丁寧に説明し、納得と共感を得ることがですね、極めて重要なのではないかと、かように思うわけであります」
《解説:アベ》「……まったく人の話を聞いていない上に、喋り方がヌメヌメしていて非常に不快指数が高いわけであります……! 誰かコイズミ君を戻していただきたい!」
そんな解説席の混乱をよそに、堺の大通りでは赤松鬼十郎が金棒を地面にドォン! と突き立て、怯える町人たちをギロリと睨みつけていた。
「おい町人ども! 細川の奴らをボコボコにした『鬼娘』とやらはどこにいる!? この『山名の赤鬼』様が、どっちが本物の鬼か、その頭蓋骨をカチ割って教えてやるわーーっ!!」
町人たちが「ひいいっ、本物の赤鬼が来たぞ!」と逃げ惑う中、通りの奥から「ちょっと待ちぃやー!」と可愛らしくも威勢のいい声が響いた。
お菊が『慈愛号』を肩に担ぎ、八兵衛を従えてプンプンと頬を膨らませながら歩いてくる。
「あんたねぇ、人の街の門を勝手に壊さんといてくれる!? 修理代どうしてくれるんよ! それに……さっきから『赤鬼、赤鬼』って、うちとキャラが丸被りしとるやないの!!」
「ああん!? なんだてめえ、こんなちっこい小娘が噂の鬼娘だとぉ!?」
鬼十郎は目を丸くしたあと、腹を抱えて「ガハハハハッ!」と大爆笑した。
「笑わせるんじゃねえ! てめえみたいなヒョロヒョロの町娘が『鬼』を名乗るなんざ、百年早いわ! 見ろ、この俺様の燃えるような赤い鎧と、この極太の金棒を! 鬼ってのはな、俺様みたいな最強の武士のことを言うんだーーっ!!」
しかし、お菊は鬼十郎の自慢の金棒と、その後ろの兵士たちが背負っている兵糧や軍資金の荷車をジッと見つめ、ニヤリと口の端をつり上げた。
「ふーん……あんたが本物の鬼かどうかは知らんけど、その金棒、鉄の塊としてはなかなかのサイズやね。溶かして打ち直したら、ええ農具がいっぱい作れそうやわ♪」
『しかも、後ろのお侍さんたち、細川軍に負けんくらい高級そうな鎧を着とるやないの! 勝手にうちの『鬼』の看板をパクった営業妨害の慰謝料として、あの荷物も鎧もぜーんぶ没収決定や!!』
《実況:フクザワ》「おーっと! お菊選手、身長二メートルの赤鬼・鬼十郎を前にしても全く動じないどころか、相手の武器を『農具の材料』呼ばわりだーっ!! さあイッシーバさん、この両者の睨み合い、どうご覧になりますか!?」
《解説:イッシーバ》「んー、ですからね、先ほどから申し上げております通り、赤い鎧というのはですね、非常に目立つわけであります。戦場において目立つということが、果たして戦術的に正しいのかどうか。私が昔、防衛の書物を読んでいた時にですね、やはり迷彩というものがですね……ブツブツ……」
《解説:アベ》「イッシーバ君、頼むからマイクの近くでネチネチと独り言を言わないでいただきたい! 聞いているだけで背筋がゾワゾワするんでありますよ!」
お菊に金棒を「農具の材料」と言われた鬼十郎は、顔まで鎧と同じくらい真っ赤にして血管を浮き上がらせた。
「て、てめえ……! この赤松鬼十郎様の愛用の金棒を、畑のクワやスキと一緒にしやがったな!? 許さん! 野郎ども、この生意気な小娘と後ろの優男を、八つ裂きにして堺の海に沈めろーーっ!!」
「「「うおおおおおおっ!!」」」
山名軍の精鋭五十人が、地響きを立ててお菊と八兵衛へと殺到する。
お菊は涼しい顔で一歩後ろに下がると、隣で今にも飛び出そうとしている八兵衛の袖をチョンと引っ張った。
「ねえ八兵衛。あの赤い大将はうちが直々に『鬼の教育』をしてあげるから、周りのうるさいおっちゃんたちを全員片付けてくれる? もし一分以内に終わらせてくれたら……後で八兵衛のこと、いーっぱい『頭なでなで』したげるね♪」
《実況:フクザワ》「で、で、出たーーーっ!! お菊選手の最終奥義・『ご褒美の頭なでなで予告』が炸裂だーっ!! これには八兵衛選手の瞳孔が完全に開ききっているぞーっ!!」
《解説:イッシーバ》「頭を撫でるという行為がですね、なぜこれほどまでに彼のモチベーションを高めるのか。そこにはですね、法的な根拠もなければ、論理的な整合性もないわけでありますね。んー、実に不可解であります」
《解説:アベ》「恋心に法的根拠を求めてどうするんでありますか……! 次回、ご褒美に目が眩んだSSR『妖術師』八兵衛さんが、山名軍を相手に本気の蹂躙を見せるわけであります。どうぞご期待ください」




