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【第13話】負傷兵ビジネス開幕!治してほしければ銀百枚よ(笑顔)

大通りの真ん中で、馬から転げ落ちた賀茂晴明は、お菊の担ぐ『慈愛号』を見上げてガタガタと震えていた。


周囲には、お菊と八兵衛に殴り飛ばされた三十人の侍たちが、「ううっ……頭が割れるように痛い……」「誰か薬を……」と呻き声を上げて転がっている。


「ひ、ひいいいっ! 頼む、命ばかりはお助けでおじゃる! わしは都の賀茂家の跡取りぞ! こんなところで頭をかち割られたら、末代までの恥でおじゃるぅぅっ!」


涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった晴明の前で、お菊はピタッと足を止めると、急に「まあ大変!」と両手を頬に当ててわざとらしく目を見開いた。


「あらあら、お侍さんたち、みーんな頭を打って大怪我しとるやんか! このままほっといたら、たんこぶが一生治らへんかもしれへんわ!」


「な、なにを他人事のように言っておるか! 貴様がそのトゲトゲの鉄塊で殴ったんじゃろうが!」


晴明の至極真っ当なツッコミを、お菊は満面の聖女スマイルで華麗にスルーした。


「でも安心しいや、お兄ちゃん! 実はうち、どんな大怪我でも一瞬でピッカピカに治せる【極大治癒(エクストラ・ヒール)】っていうすごい力を持っとるんよ!」


お菊は近くに転がっていた侍大将の頭に手をかざし、キラリーン☆と少しだけ回復魔法の光を見せた。


「お、おおっ!? ズキズキしていた頭の痛みが、スッと引いていくぞ……!?」


侍大将が驚きの声を上げると、お菊はパッと手を引っ込め、チャリンと指で銭の形を作ってみせた。


「ほらね、すごいやろ? 今ならなんと、お一人様につき『銀貨十枚』ポッキリで、最後まで綺麗に治してあげるで! 三十人おるから、団体割引もなしできっちり『銀貨三百枚』や! さあ、部下思いの優しい隊長さん、どうする?」


《実況:フクザワ》「おーっと、これはいけません!! 自分でメイスでボコボコに殴っておいて、その直後に高額な治療費を請求する! 前代未聞の悪徳出張クリニックが開業だーっ!!」


《解説:コイズミ2世》「これはですね、治療費が銀貨三百枚ということです。つまり、無料ではない、有料だということなんですね。お金を払えば治るし、払わなければ治らない。私は、そう考えています」


《解説:アベ》「コイズミ君、頼むから黙っていていただきたいわけであります……! ええ、これぞですね、需要を自らの暴力で作り出し、独占的な供給によって暴利を貪るという、いわば資本主義の最も暗黒な部分、究極のマッチポンプ商法でありますね」


晴明は目を白黒させ、怒りで顔を真っ赤にして叫んだ。


「ふ、ふざけるなでおじゃる!! 自分で殴っておいて治療費をよこせなど、盗人猛々しいにも程があるぞ! 誰がそんな法外な銭を払うかーーっ!!」


「あ、そう? 払われへんのやったら、しゃあないねぇ……」


お菊は残念そうにため息をつくと、再び『慈愛号』を片手でヒョイッと持ち上げ、晴明の目の前でブンッ! と風を切る素振りをした。


「ほな、まだ怪我をしてへん隊長さんにも、今から『銀貨三百枚分の怪我』を負ってもらわなあかんね♪ どこから殴られたい? 頭? それともお尻?」


『ふふっ、あんたの馬の鞍に、町のみんなから巻き上げた小判と銀貨がたっぷり入っとるのは確認済みやからね! 命が惜しければ、ぜーんぶ吐き出しなさいな!』


目の前で唸りを上げる黒光りのトゲトゲ鉄塊を見て、晴明のプライドはコンマ一秒で粉々に砕け散った。


「は、払う!! 払いますでおじゃるぅぅぅっ!! 馬の鞍にある軍資金の袋も、わしの懐にあるへそくりも全部渡すから、どうかその凶器をしまってくだされぇぇぇっ!!」


「まいどあり〜♪ ほな八兵衛、馬からお金の袋を下ろして、あとお侍さんたちの高級そうな鎧も、治療の邪魔になるからぜーんぶ脱がせて回収しといて!」


「了解だお菊ちゃん! 怪我人を無料で看病するどころか、鎧まで脱がせて楽にしてあげるなんて、お菊ちゃんはなんて慈悲深いフローレンスなんだーーっ!!」


『フローレンスって誰だか知らないが、とにかくお菊ちゃんは世界一優しい女神様だ! よし、俺も手伝って一秒で全員をふんどし一丁にしてやるぞーっ!!』


《実況:フクザワ》「ファイヤーーーッ!! 契約成立だーっ! お菊選手、全体の回復魔法をたった一発かけただけで、細川軍の軍資金と高級甲冑三十領を丸ごとゲットだーっ!!」


《解説:コイズミ2世》「鎧を脱ぐということはですね、服が減るということです。つまり、非常にクールビズで、セクシーな状態になったと言えるのではないでしょうか」


《解説:アベ》「……コイズミ君、それは単なる追い剥ぎなんでありますよ……。しかし、回復魔法でピンピンに治してもらったものの、ふんどし一丁で京の都へ逃げ帰る細川軍の姿は、まさに哀れとしか言いようがないわけでありますね」


お菊はまず、晴明が町人から奪っていた銭をすべて元の持ち主に返してやり、残った莫大な軍資金と鎧の山を前にして、ホクホク顔で頬を緩ませた。


「うっひゃー、大漁大漁! これだけあったら、大根どころか堺の一等地にお店が持てるかもしれへんわ!」


町人たちから「お菊ちゃん、また俺たちを助けてくれたんだな!」「堺の守り神だーっ!」と大歓声が上がる中、お菊はちゃっかり小判の枚数を数え始めるのだった。


《実況:フクザワ》「さあ、東軍・細川方の先遣隊を文字通り裸一貫で叩き返したお菊&八兵衛コンビ! しかし、応仁の乱のもう一方の主役が、黙っているはずがなーーーいっ!!」


《解説:コイズミ2世》「次回はですね、山名軍の『赤鬼』がやってきます。赤鬼ということは、青い鬼ではない、赤い鬼が来るということです。約束は、守るためにあります」


《解説:アベ》「……誰かこの男を解説席からつまみ出していただきたいわけであります。次回、山名軍の猛将・赤松鬼十郎とお菊さんによる『本物の鬼決定戦』が開幕します。どうぞご期待ください」

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