第44話 ゼノンとの関係
(アメリアside)
半年が過ぎた。
アレクシオ王子とは、あの日から一度も会っていない。王子の呪いがどうなっているのかずっと気になっていたが、確かめることもできずにいる。ただ、今のところ王子が亡くなったという話は聞かないので、呪いによる影響はまだ出ていないようだった。
それと、こんな噂が流れてきている。
聖女セレナが死亡したらしいと……。しかも、瘴気に侵されて死んだというのだ……。けれどこの噂も、本当かどうかは分からない……。
一方、今の私は、グランデ公爵家に戻り、至って平穏無事な人生を送っている。平穏無事と言っても、一つ困ったことがある。父がやたらと私に見合い話を持ってくるのだ。王妃への毒混入の疑いも完全に晴れ、結界を修復した大聖女としてもてはやされている私のもとには、恐ろしいくらいに好条件な男たちとの見合い話が、次々と舞い込んでくるのだった。
けれど私は、そんな見合い話を全てお断りしている。
なぜなら、私には⋯⋯。
※ ※ ※
夕刻の空には、月の姿が浮かびはじめていた。そんな中、私はある男性に会うために、一人で町を歩いていた。しばらく歩くと、その男性の姿が目に映った。懐かしさのあまり、自然と笑みがこぼれてくる。彼も、私を見つけると満面の笑みを浮かべ手を振ってきた。
「お待たせ、ゼノン」
「待ってなんかいませんよ。僕も今来たところですから」
そう言いながらも、結構待ってくれていたような気がする。やはりゼノンは、前と変わらずやさしい男の子だ⋯⋯。けれど、この半年でかなり大人びた気もする⋯⋯。
公爵家執事の息子であるゼノンは、無事に魔法学校を卒業することができた。しかも首席で卒業したため、就職先もエリートが集う魔法省に内定している。今日はそんなゼノンに誘われて、夕食を一緒にする予定なのだが……。予約した料理店の名前を聞いて驚いた。この町一番の高級料理店だったからだ。なんとなく胸騒ぎがしてくる。ゼノンが以前に言ってくれた言葉は、今でも忘れたことなどない。
彼は私にこう言った……。
『魔法学校を卒業して、アメリア様を守れる男になったときには……、僕との結婚を考えていただけますか?』
そして今、ゼノンは魔法学校を卒業して、就職も決まった。
店に入ると、周囲の視線が一斉に私へと向けられた。
「あれ、アメリア様じゃない?」
「えっ? 大聖女の?」
「そうよ。間違いないわ」
こうして注目を浴びるのはよくある事なので、今ではもうすっかり慣れてしまっている。
「アメリア様の隣にいる男性は誰?」
「恋人かしら……」
「カッコいい人だわ……。アメリア様にピッタリよ」
給仕の引いてくれた椅子に私が座ると、ゼノンも向かいの席に腰を掛けた。
「なんだか僕まで有名人になった気分です」
「こうなるのは分かっていたから、変装しようと思ったんだけどね……」
「アリアさんにですか?」
「ええ、今でも時々変装するのよ。そうすると誰も私に気づかないから」
「有名人も大変ですね……」
「私はいいのよ。でも、ゼノンは居心地悪いでしょ?」
「そんなことありません。今の僕は最高に幸せですよ。だってアメリア様とこうして食事ができるのですから」
ゼノンと二人で暮らしていたときは、毎日小さなテーブルで一緒に食事をしていた。けれど、私がグランデ公爵家に戻ってからは、そんなことも一切なくなってしまった。こうして二人で食事をするなんて、久しぶりのことだ。あの時の二人で食べた食事、いつも早食いだったけど、必ず満面の笑みで「美味しい」と言ってくれたゼノン、大変な毎日だったけれど今にして思うと、忘れられない二人の貴重な時間だった。
しばらくすると、ワインと共にコース料理が運ばれてきた。さすがは町一番の料理店だけあって、料理は予想以上に美味しいものばかりだった。舌のこえている私でも、思わず声を上げたくなるような絶品料理が次々と出てきた。
懐かしい話に花を咲かせながら、デザートを食べ終えた時だった。ゼノンがおもむろに小さな箱を取り出し、私の目の前に置いた。彼はその箱をテーブルに置くと、こわばった顔でこう言った。
「アメリア様、これを受け取ってください」
「えっ、何?」
私はテーブルに置かれた箱を見つめた。あの時のゼノンの言葉がよみがえってきた。夜中の台所で、ゼノンは私にこう言ったのだ。『どんなことがあっても、僕はアメリア様を幸せにします。あんな王子と違って、一人の女性を愛し続けます』
出された箱を持ち、その場で開けてみた。するとそこには、赤い宝石のついた指輪が入っていた。予想通り、宝石はルビーだった……。
いつの間にか、レストランにいる客たち全員の視線が、私たちに向けられていた。そんな中でゼノンは大きく一つ息をして、テーブルから身を乗り出しながら私にこんな言葉を贈ってきた。
「あの時、学校をやめて、アメリア様と二人で逃げ暮らしたいと伝えた気持ちは、今も変わっていません。必ず幸せにします。僕と結婚してください」
どこからか「えっ?」という男性の声がした。すると「しっ!」という女性の声も聞こえてくる。
私はその場でしっかりと返事をしようとしたが、こんなに注目をされてしまっている状況なので、どうしてもできなかった。なので私は、その箱を受け取ってからゼノンにこう伝えた。
「二人きりになった時に、ちゃんとした返事をさせて」
「わかりました」
ゼノンは唇をしっかりと結び、私を見つめている。彼の心臓の音が、こちらにまで伝わってくる。
ゼノンの真剣な表情を見ていると、私は彼に吸い込まれそうになり、すべてを彼に預けてもいいのでは、と思えてきた。




