第43話 セレナの運命
(聖女セレナside)
まもなく日が沈もうとしている。
空が赤く染まった中、一台の馬車がエルフィンド王国の国境を超えようとしていた。客車には、聖女セレナが乗っていた。セレナは鞄から大切にしまっておいたものを取り出し、うっとりとそれを眺めた。
自分の手で毒殺した相手が身につけていたかと考えると、気持ち悪くもあったが、そんなことなど忘れさせてくれる程の魅力がこの宝石にはある。セレナは、手の上にのせた大粒のルビーを何度も眺め返していた。
まさに私のために存在しているような色……。さすがは王家に伝わる秘宝のルビーだわ……。
これで何回目だろうか、セレナはネックレスのチェーンを広げると自分の首にかけてみた。深く鮮明な赤色のルビーが胸の前で輝いている。
本当に私は、なんて運のいい女なのかしら……。
アレクシオ王子は子供の頃、魔の森で瘴気に侵された……。そんな貴重な情報を得ることができた時、自分はなんて幸運なのだと感じた。これで王子に接近できると思ったものだ。
ただ、アメリアを婚約者に推していた王妃を暗殺する計画だけは、なぜか失敗に終わってしまった。その時は、どうしてうまくいかなかったのかと神を呪った⋯⋯。けれど、結局神はいつも私の味方だった。神は、私のためを思って、あえて王妃殺しを失敗させたのだ。というのも、計画通りに事が進んでいたなら、今ごろ私は呪われた王子と結婚する羽目になっていたのだから……。いくらイケメン王子でも、死んでしまえば利用価値など何もなくなってしまう……。しかもあの王子、私よりもずっと年増で醜い女に興味を持つだなんて……。
あんな王子、さっさと呪い殺されればいいわ……。天罰が下ればいいのよ……。
セレナは微笑みながら王子の未来を想像し、幸せな気分に浸っていた。
そういえば、もう一つ幸運が舞い込んできている⋯⋯。そのことを思い出したセレナは再び鞄の中に手を入れた。中から取り出したのは、アメリアから奪い取った魔道具の指輪だった。
きっと神様が後ろについてくれているに違いない。秘宝のルビーばかりでなく、国宝級の魔道具まで手に入れることができたのだから。
セレナはゆっくりと指輪をつまみ上げ、引き込まれるような艶に見とれていた。
これが伝説の……、魔力封じの指輪……、聖女の生命を守ると言われている指輪だ……。
セレナはさっそく指輪を自分の指にはめてみようとした。
ただ、そうしようとした時、ふと妙な感じがした。指輪が大きく見えたのだ。確か、アメリアは小指にこの指輪をはめていたはず。それにしては、やけに大きく、男性の指にもはまりそうな品物なのだ。
どういうことだろうか?
この指輪は、確かにアメリアのポケットから奪い取ってきたもの……。
今すぐここで指輪をはめて、その効果を試すつもりだったが、指輪の大きさを見たセレナは、はめるべきかどうかをもう一度考え直すことにした。
まずは、他人の指にはめてみて、安全かどうかを確かめるべきだわ……。そう結論付けたセレナは、いったん指輪を鞄に戻した。
それから十五分ほど馬車に揺られ続けた時、考えが変わった。
いったい私は、何を心配しているのだろうか……。私の後ろには神様がついているのよ。私は神に選ばれし聖女なのよ。神はいつも私の味方だったのだから……。これからも味方になってくれるはず⋯⋯。
セレナは再び鞄から指輪を取り出した。見れば見るほど、魔道具特有の危険な魅力がセレナの脳を刺激してくる。この指輪を今すぐはめてみたい……。そんな誘惑に逆らうことができなかった。
セレナは手のひらに置いた指輪を左手でつまみ、そっと自分の右手中指にはめてみた。
「えっ!」
次の瞬間、目が眩むほどの電流が頭の中を駆け巡った。
何か異常なことが起こっている!
そう感じたセレナは、あわてて指輪を外した。けれど指輪を外しても、身体の中には得体のしれない不吉なものが残ってしまい、それが消え去ることはなかった。
身震いしながら外を眺めた時、すでに日はすっかりと落ちてしまっていた。




