↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/46

第32話 ゼノンの告白

 鍋の中にターメリックに似た黄色い香辛料を入れ、野菜と一緒に煮込んでいた。いつもなら味を整えるのに集中できるはずなのだが、今日は頭の中がぼんやりして料理に没頭する気持ちにはなれない。もうだめだ、どうしたらいいの。今私の頭の中に浮かんでいることは一つだけ。それは、とても残酷なシーン⋯⋯、そう私が民衆の前で処刑されてしまう、そんな本で読んだシーンが頭に浮かんでくる。

 一刻も早く逃げた方がいいのでは。ここで料理をしている間にも、騎士団が私を捕らえに来るかもしれない。すると、玄関からさっそく物音が聞こえてきた。今思っていた通り騎士団が来たのだろうか。足がすくんでしまい動けなくなっていると、家のドアが開いた。家に入ってきた人物を見て、私は思わず大きく息を吐いた。不安が一気に薄らいでいく。なぜなら入ってきた男性がゼノンだったからだ。ゼノンは、レイ殺しの事件について、少しでも情報を集めようと町の人々に話を聞き回ってくれていたのだ。

「アメリア様、不思議なことがございます」


「なに?」


「それが、アメリア様が渡した王家のネックレスなのですが、どうもレイはそのネックレスをつけていなかったようなのです」


 あれほど嬉しそうにして首に巻いていたネックレスなのに……。

「死ぬ前に、どこかへ仕舞っておいてくれたのかしら」


「だとすれば、ラッキーですね」


「でも、どちらにしても私が捕まるのは時間の問題だわ。聖女セレナは、私が変装していることに気づいているし」


 そう……、私がアメリアだと暴かれるのは、時間の問題だった。いえ、もうすでに暴かれているのかも⋯⋯。そして、そのあとに待っているストーリーは、言わずもがな斬首刑……。


「アメリア様、この国を離れましょう」


「もう、それしかないわよね」


「もちろん僕もご一緒させていただきます」


「それは駄目よ」


「いえ、ご一緒します」


「本当にそれは止めて」


「どうしてですか?」


「ゼノンに付いてこられると迷惑なのよ」


「そんな……。僕はアメリア様を一生お守りするつもりなのです」


 一生って……。 ゼノンはまだ十七歳……。何とかして私との関係を終わらせてあげないと。


「はっきり言って、私、ゼノンとはもうお別れしたいの。関係を絶ちたいのよ」


「そんな⋯⋯」

 ゼノンは顔を強張らせている。

「アメリア様と僕とでは、身分が違うことは充分に承知しています。けれど、これから国を捨てて逃げ続けるのであれば、そばでアメリア様を支え続ける男が必要です。ですので……」


 ずっと同じ家に住んでいるからだろう。ゼノンは間違いなく私に好意を寄せている。そして正直に言うと、私もゼノンのことを素敵な男性だと思うようになってきていた。けれど、これは命に関わること。やはりゼノンを巻き込むわけにはいかない。

「ごめんなさい。はっきり言うけど、私、頼りない年下の男の子には興味ないの」


 ゼノンは黙り込んでしまった。


「だからゼノンは、ちゃんと魔法学校を卒業することだけを考えて」


「でしたら……」

 ゼノンの声は少し震えてしまっていたが、真剣な面持ちでそのまま言葉を続けた。

「魔法学校を卒業して、僕が頼れる男になった時には……、僕との結婚を考えていただけますか?」


 結婚って……。十七歳の真っ直ぐな言葉に、どう答えて良いのかわからなかった。けれど、ゼノンは真剣に申し出てくれている。私もちゃんと答えないと。

「あなたが魔法学校卒業して、立派な大人になった時、今の言葉の返事をさせてもらってもいい?」


「はい。では、できればのお願いなのですが、アメリア様もそれまでは他に男など作らずに、僕のことを待っていていただけませんか?」


「分かった、待つわ」

 私はそう答えると、場の空気を変えるために笑顔を見せた。

「さあ冷めるわよ。晩御飯を食べましょう」


 小さなテーブルに向かい合い、私とゼノンは夕食を食べ始めた。今日のメニューはカレースープだった。ゼノンは、いつものようにまぶしい笑顔で料理を褒めてくれた。

 こんな温かい時間が、これからもずっと続けばいいのに⋯⋯。どうしてこの物語は、こんなにも残酷に作られてしまっているのだろうか。ストーリーを変えることができるかどうかなんて、もうわからない。けれど、私は自分にできることをするしかない。最後まで諦めずにストーリーを変えようと努力するしかない。そう思いながら、私はカレー味にしたスープをすくい飲んでみた。塩コショウが入っておらず、味がしない⋯⋯。ゼノンはこんな料理を美味しいと言ってくれたのだ⋯⋯、私に気を使って⋯⋯。私は慌てて、調味料を取りに台所へと向かったのだった。


 ※ ※ ※


 翌日の朝、私はエルフィンド王国から逃げ出すため、最低限の荷物だけをカバンに詰め、ゼノンの家を出た。ただ、家を出たはいいが、どこの国を目指すべきかはまだ決めかねていた。ミレーヌ聖女のいるネリ公国が良いと思えたが、よく考えると、今後セレナたちに発見される可能性も高い。かといって、その他の国に行くにしても、情報も何もない。

 どうすればいいのだろう。

 そんな気持ちを抱きながら、私はどうしても行かなければと思っていた場所へ向かっていた。国を出れば、もう簡単にはここへ来ることができない。最後にちゃんと、お祈りをしなければ……。

 そう思いながら訪れた場所は、私の母であるソフィアが眠るお墓だった。墓石の前に立ち、小さな花をたむけた。

 私は今、変装したアリアの姿で母の墓前に立っている。本当は娘のアメリアとして、母に自分の姿を見てもらいたかったのだが……。こんな姿でしか、お墓参りをできないとは……。

 手を合わせて、心の中で祈った。

『お母様に謝らなければならないことがあります。私はお母様のことをずっと誤解していました。お母様は私を守るために私の魔力を封じたのですね。大聖女としてではなく、一人の女性としての幸せを願ってくれたのですね。そんなことも知らず、私はお母様のことを嫌いになってしまいました。ごめんなさい。そして、ありがとうございます』

 お祈りが終わり、目を開けた時、背後で何やら物音がした。私を捕らえようとしている者でも来たのだろうか。

 ビクビクしながら後ろを振り向くと、そこには思いもよらぬ人物が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。