第25話 王子の新しい恋人
「アレクシオ王子、異国の材料が手に入りましたので、味噌汁というものを作ってまいりました。是非ご賞味ください」
熱いうちに食べていただきたいと思った私は、王子の部屋へ入るなり鍋をテーブルに置き、持ってきたお椀に味噌汁を入れた。
「ああ、そのうち頂きますので、そのへんに置いといてください」
予想に反して返ってきた王子の返事は、そっけないものだった。昨日は、私の作っただし巻き玉子を絶賛してくれたのに……。今日の王子は昨日とは別人のように冷たい顔をしていた。
「どうかされたのですか」
王子の態度が気になり聞いてみた。
「実は、アリアさんにお伝えしなければならないことがあるのです」
「何ですか?」
「もう私とは会わないでいただきたい」
あまりに予想外の言葉だったので、意味を理解するのにしばらく時間がかかってしまった。
「なぜですか?」
「実は、とても言いにくいことなのですが……」
王子は言葉を止め目をつぶった。よほどの理由があるのだろうか。私も黙って王子の言葉を待った。
「……申し訳ないのですが、他に好きな女性ができてしまったのです」
「えっ」
私は空いた口が塞がらなかった。
「そ、そうですか。それは、……良かったですね」
さんざん私に気があるようなことを言っておいて、早くも目移りしたということか。演劇を見た後のキスは何だったのだろうか? 王子にとってあれは、単なる挨拶程度のものだったのだろうか? ときめいてしまった自分が馬鹿みたいに思えてきた。
「実は、私の好きになった女性を、アリアさんにも是非会っていただきたいと思いまして」
「私が、王子の好きになった人と、わざわざ会うのですか?」
「はい。今こちらに呼んでいますので、もうじき来ると思います」
今ここで、その女性と合うなんて⋯⋯。でも、誰だろう⋯⋯。まさか聖女セレナでは……。
けれど、ありがたいことにその予想だけは外れてくれた。ただ、王子の部屋に入ってきた女性を見て、私は味噌汁をこぼしそうになってしまった。部屋に入るなり王子の横に立った女性は、さっきまで調理場で話をしていたイザベラだったからだ。
「アリアさん、あなたとの婚約はなかったことにしてもらいたい」
アレクシオ王子は、イザベラの肩を抱き寄せながら、そんな言葉を吐いてきた。
「なかったことって……、もともと婚約をしたつもりはございません」
王子は私の言葉を聞くと、大きく頷き笑顔を見せた。
「そう言ってもらえるとたすかるよ」
王子の言い方が、私を見下しているように感じられた。
「実は昨晩、ここにいるイザベラと二人きりで話す機会があり、私はすっかり彼女の魅力にやられてしまったんだ」
「……」
「やはり女性は、若くて美しい方がいいからね」
何なの、これは……。
きっと昨日の夜、イザベラと二人であまりに楽しい時間を過ごしたに違いない。
「それで、アリアさんとは、もう会わないほうがいいと思いまして。イザベラにも悪いので……」
「わかりました。そうさせていただきます」
「では、もう王宮へ来るのも、今日限りで終わりにしてもらっていいですか」
王子の態度があまりに横柄で失礼に感じた私は、間髪入れず返事をした。
「はい。もう二度とここへは参りませんので安心してください」
ただ、言ってしまってから後悔した。王宮に出入りできなくなると、真犯人を探す手立てがなくなってしまう……。
私は呆然としながら、アレクシオ王子の顔を眺めた。王子は満足そうに微笑み、イザベラの肩に手を回していた。




