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第24話 目撃者は?

 私とゼノンが暮らす部屋には、素敵な花瓶に入った花束が三つある。花瓶は最近購入したものだった。ゴミ箱にお花を入れておくわけにはいかないし⋯⋯。そして、ありがたいことに、花束は、あの日以来増えることはなくなった。

 アレクシオ王子と二人で演劇を観たあの夜から、一週間が過ぎていた。まさに夢見心地で過ごした一週間だった。

 たぶん……、推しの王子が、私のことを好いてくれている……。けれど……。

 そう、王子が好きなのは、あくまで変装したアリアであって、本当の私、つまりアメリアではない。しかも王子は、アメリアのことを、王妃毒殺を企てた犯罪者だと思って憎んでいるのだし……。

 こんなことで浮ついている場合ではない……。

 今の私がするべきこと、それは死刑を免れるために、この物語のシナリオを書き換えること。そのために私は、王宮に入り込み、真犯人を探し出そうとしているのだから。だから、王子との関係をこれ以上深めてはいけない……。繰り返しこの言葉を、胸の中で呟いた。けれどそう呟けば呟くほど、私の頭の中は、王子のことでいっぱいになってしまうのだった。

 そんな私はこの一週間、料理の勉強と称して王宮の調理場に出入りさせてもらっている。ありがたいことにアレクシオ王子の口添えもあるので、料理長も私をお客さん扱いしてくれている。なので、調理場の中では自由に行動することができた。

 アレクシオ王子は、アメリアが調理場で毒を入れている場面を見た者がいると言っていた。その目撃者が誰なのかは教えてもらえなかったが、おそらくこの調理場で働いている者だろう……。そう目星をつけた私は、こうして毎日、調理場へと足を運んでいるのだった。

 一週間たち、料理長とも打ち解けた関係になってきた。ここからは、危険を承知で進んでいかなければならない。残された時間は、そう多くはないのだから。

 私は料理長へと近づき、単刀直入に聞いた。

「王妃の食事に毒が混入された事件について聞きたいのですが」


「急にどうされたのですか?」


「王妃の今後の健康のためにも、いろいろと調べているのです」

 もちろん出任せに言っただけだ。


「そうですか。それなら知っていることは何でもお答えします。といっても、ほとんど何も知らないのですが……」


「グランデ公爵家のアメリア様が毒を混ぜたそうですね。この調理場にその目撃者がいると思うのですが、誰だかご存知ですか」


「知りません」

 料理長は短く答えると付け足した。

「ただあの事件の後、あそこにいるイザベラがいろいろ話を聞かれていましたが」


 イザベラ……。

 調理場の奥で今も熱心に下ごしらえをしている女性がいる。会ったことはなかったが、以前からイザベラの名前はよく聞いており、その存在は王宮でも有名だった。若くして料理の才能があり、しかも……。初めて見るイザベラの姿に、私は見とれてしまっていた。うわさ通りの美人さんだわ……。

 私は、話のネタに困らないよう、自作の料理を持って行きながらイザベラへと近づいた。

「イザベラさん初めまして、アリアと申します」

 そう挨拶した私を見たイザベラは、ハッとした顔を見せると、なぜか私を避けるように視線を下に向けた。


「アリア様、お噂はかねがね伺っております」

 蚊の泣くようなイザベラの声だった。

 嫌われているのかな……。そう思ったがめげずに会話を続けた。

「このスープの味をみてくれるかしら」

 私は持っていた鍋をイザベラの前に置いた。イザベラは鍋の中を覗くと、スプーンでスープをすくい、一口味見した。やはり料理人だからだろう。スープを口に含むと、今までの態度が一変した。目を見開き私の顔を見ると、張りのある声を出してきた。

「この味は……、初めて口にしました。これは一体何なのですか?」


「味噌汁という異国の食べ物です」


「みそしる……。嫌味がなく、優しい味をしています。とても美味しいです」


「よかった。腕利きのイザベラさんに、美味しいと言っていただけるなんて」


「どうやって作るのですか?」

 明らかにイザベラは、未知の味に興味があるようだ。丁寧に作り方を説明すると、イザベラは目を輝かせながら私の話を聞いてくれた。


「まだ他にも、異国の料理を知っているのですが……」

 私は、ちょっと自慢げに言ってみた。


「本当ですか? よろしければ、是非教えていただけませんか?」


「もちろん良いですよ。ただ……」


「ただ?」


「イザベラさんが、私のお友達になってくれるのなら、教えてあげます」


「なります!」


「うれしいわ……」

 私は心からイザベラと友達になりたいと思っていた。料理好きの私は、若くして才能豊かな料理人と仲良くなりたかったのだ。けれど……。正直、打算的な気持ちもあった。イザベラと仲良くなることで、彼女から聞き出したいことがあるのだから。私は、ようやく本題に入った。

「イザベラさんは、王妃の食事に毒を入れた犯人を目撃されたのですか?」


「えっ」

 イザベラの目が泳いでいる。体が固まり表情がぎこちない。この姿を見れば、おそらく目撃者はイザベラに間違いなかった。


「犯人はアメリア様だと聞いているのですが、イザベラさんはアメリア様が毒を入れたところを見たのですね」


 イザベラの顔が引きつっている。

「私は……、何も見ていません……」


「ご存知なことがあれば教えていただけませんか」


「私は、何も知りません」

 小さな声だったが、固い口調だった。おそらく口外してはならないと言われているのだろう。今日ですべてを解決する必要などない。今後、イザベラともっと親密になれれば、何かを教えてくれるかもしれない。


「変なことを聞いてごめんなさい」

 私はそう言うと、調理台の上に置いていた味噌汁の鍋を手に取った。

「今からアレクシオ王子のところに行って、この味噌汁を食べてもらうわ」


「今から、王子のところに……」

 なぜかイザベラは、これまで以上に暗い顔をした。


「あなたに味を保証してもらったから、安心して王子に出せるわ」

 私は、イザベラの暗い顔を明るくするために笑顔を向けたが、イザベラの顔に変化はない。ないどころか、ますます沈んだ顔つきになっている。そんなイザベラを残して、私は王子の部屋へと向かったのだった。


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