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第22話 王子の部屋で

 王宮につくと、悪い予感が的中した。門番からの知らせを聞き、私を迎えに出てきたのは、補佐官のシビルだったのだ。シビルは、不思議そうな顔つきで聞いてきた。

「体調がお悪く、医者から人と会うのを禁じられていると聞きましたが……、大丈夫なのですか?」


「え、ええ。奇跡的に、回復いたしました……」


「そうですか、それは良かった。どれほど心配していたことか」

 シビルが本当に心配しているような顔をしているので、嘘をついていることにうしろめたさを感じてしまった。けれど、今の私にとって一番大切なことは、物語のストーリーを変えて、死刑を免れること。シビルの迷惑な恋愛感情に付き合っている暇などない。


「アレクシオ王子にお会いしたいの。取り次いでいただけますでしょうか?」


「はい……。しかし、王子はお忙しい身で……」


「待たせていただきます」

 私は、もう引き返すつもりなどなかった。

 道は自分で切り開かなければ……、さもなければ、この先には最悪なシナリオが待ち構えているのだから。


「わかりました」

 シビルはそう返事をすると、私を王宮一階にある謁見の間へと案内した。

「ここで待っていてください」


 言われるままに、私は薄暗い部屋で一人きりで待っていた。急な訪問なので、かなり待たなければと覚悟した。もしかしたら、忙しくて、今日は会えないのかも……。相手は、一国の王子、その可能性だって充分に考えられる。

 前もって謁見のお願いにあがるべきだったかも……。けれど、のんびりとはしていられないし……。そんなことを考えているときだった。アレクシオ王子が息を乱しながら、にこやかな顔で現れた。私が謁見の間に入り、まだ五分も経たないうちにだ。


「アリアさん、あなたから来ていただけるなんて」

 スラッとした体型に超絶イケメンな顔をした王子が、私を見つめてくる。私はまともに目を合わすことができず、思わず視線をそらした。やっぱり推しは尊い……。


「さあ、こんなところではなんですから、私の部屋で話しませんか?」


「王子のお部屋、ですか……」


「はい。どうぞこちらへ」


 王子は私の返事を聞くまでもなく、さっと私の横に並ぶと、私の背中に手を添えながら歩き始めた。王子が横にいることで、私の心臓は波打ってきた。しかも、背中に王子の手が触れている。こんなこと、アメリアに対しては一度もしたことがないのに……。

 最上階の赤い絨毯の上を二人で歩き、突き当りの部屋の扉まで来た。王子の瘴気を浄化した寝室は予備的な室で、本来の王子の私室はこちらになる。そして、この私室は、側近でさえ簡単には入れない場所だった。

 私の緊張が伝わったのだろう。王子は推し特有の眩しい笑顔を向けながらこうささやいた。

「大丈夫ですよ。取って食おうなんてことはしませんから」


「……はい」

 私は小さな声で何とか返事をすると、促されるままに王子の部屋へと足を進めた。中に入ると、明るく、清潔そうな空間が広がっている。家具の配置などを見ていると、アレクシオ王子のきっちりとした性格が見て取れる。派手な装飾はなく、落ち着いて過ごしやすい部屋……。


「アリアさんに、あんな失礼なことを言ってしまったのに、あなたからこちらへ足を運んでくださるなんて、もう嬉しくて本当はここで飛び上がりたいほどですよ」


 あんな失礼なこととは、なんだろう? 少し考えて、思い当たることといえば……。

「失礼なことというのは、アレクシオ王子が私に、その……」


「はい。婚約してほしいと言ってしまったことです」


「やはり、あれは冗談だったのですね」


「いえ、冗談なんかではありません。ただ、私があまりに一方的に先走りすぎたと反省しております」

 王子の表情や仕草から、婚約話を断った私に立腹している様子はない。それどころか、まだ未練たっぷりな感じである。

 私の目的は、王子から王妃毒殺を企てた真犯人の情報を聞き出すこと……。そのためには、王子と今まで以上に親密になる必要が……。


「アレクシオ王子、実は……」


「なんですか?」


「実は、勝手なお願いなのですが……、その、王子とこれからも、良い関係でいたいと思っておりまして……」


「私も同感です。アリアさんとは、ずっと良い関係でいたい」


 ずっと……。


「その、それでは、アレクシオ王子、私とこれからも親しくしていただくことは可能でしょうか?」


「ええ!」


「あ、年齢差も身分差もあることは充分承知しております。ですので、あくまでお友達ということで、私とお付き合いいただければうれしいのですが……」


「お友達ですか……」

 王子は頭を垂れながら目を閉じた。その後、顔をあげると真剣な顔でこう述べた。

「もちろん、お友達からでも結構です。お友達から始めましょう」


 お友達から……。ちゃんと私の言葉は伝わっているのだろうか……。少し気になったが、もう進むしかない。ここからは躊躇せずに本題に突入しなければ。


「それはそうとアレクシオ王子、王妃の体調はどうですか?」


「はい、アリアさんに解毒魔法を掛けてもらってから、すこぶる調子は良いみたいです」


「それは良かった」

 私は息を呑み話を続けた。

「それで、王妃に毒を盛った人物というのが、グランデ公爵令嬢のアメリア様だと聞いておりますが、それは本当のことなのでしょうか?」


 アメリアという名前を聞いたからだろうか、途端にアレクシオ王子の顔が曇った。やはり王子は、アメリアのことをかなり憎んでいるようだ。


「ええ、間違いありません。アメリアが毒を盛ったのです」


「どうしてアメリア様だと?」


「目撃者がいるのです」


「目撃者? どなたですか?」


「それは……、まだ極秘事項なので言えません」


「そうですか……。実は、私はアメリア様が犯人ではないと考えているのです。ですので、できればいろいろな情報をいただければと思いまして……」


「アメリアが犯人ではない? なぜそう思うのですか?」


「解毒魔法を行っている際に分かったのですが、王妃に盛られた毒はかなり強力な魔法薬でした」

 これに関して、嘘は言っていない。けれど、信じてもらえるのだろうか。


「魔法薬?」


「はい。アメリア様は魔法が使えないと聞いております。ですので、犯人は別にいるのではと」


 アレクシオ王子はしばらく考え込むと口を開いた。

「いや、犯人はアメリアです。目撃情報は、間違いないものですから」


「どうして間違いないのでしょうか?」


「目撃者が見たことを、聖女セレナが水晶で映し出しています。水晶には、間違いなく調理場で毒を盛るアメリアが映っていました」


「水晶で……」


 水晶を使い、人の記憶を鮮明に映し出す魔法がある。その魔法では、真実しか映し出すことができず、間違った映像を流すことなどできない。

 でも、なぜ……。

 私は、毒など入れていない。なのに、どうして水晶に私が映っているのだろうか。


「ですので、あとはアメリアを捕らえて、一日も早く刑に処するだけなのです。そうすれば王妃も、安心して暮らせるようになりますから」


 アレクシオ王子はまだアメリアを処刑するつもりだ⋯⋯。まだ、物語は何も変わってはいない⋯⋯。斬首刑になる結末も、何も変わってはいないのだ。

 目をつぶると恐ろしい光景が目に浮かんでくる。物語を書き換えるためには、真犯人を見つけ出すしか方法はない。でも、どうやって⋯⋯。

 すると先ほどの王子の言葉がもう一度よみがえってきた。王子はこう言ったのだ。『調理場で』と。

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