第15話 母とそっくりな私
「ねえアリア、久しぶりに再開したのだから、私と二人っきりで少し話をしない?」
「えっ」
ミレーヌ聖女の言葉にどう答えれば良いか迷った。だいたいどうしてミレーヌ聖女が私を知り合いだなんて言ってくれたのかもわからない。それに、指輪のことでも……、私と同じ指輪をつけていた人を知っていると言っていた。
「奥の間が空いているので、どうぞ使ってください」
ミランダ王妃の言葉で、結局私はミレーヌ聖女と二人っきりで話すことになってしまった。奥の間は、しっかりと扉が閉じられており、私たち二人以外は誰もいない。広さもあり、声が外にもれる心配もない。
「ここなら大丈夫ね」
ミレーヌ聖女は周囲を見渡している。
「助けていただいてありがとうございます」
私は深々と頭を下げた。
「命拾いしました」
「何か事情があるようね」
「……」
「その指輪、外してくれない」
私は言われるがままに、左手小指から指輪を外した。どうして指輪を外すように言われたのか、意図は分からず不安な気持ちになったが、このような状況ではもう聖女の言葉に従うしかなかった。
「指輪をテーブルに置いてくれる」
指輪が私の手から完全に離れると、私の体の中にすーっと風のようなものが流れ込んできた。魔力が溜め込まれてきたのだ。
「やはりね」
「やはりとは……、どういうことでしょうか」
「その指輪は、魔力を封じる魔道具ね」
聖女は、私の魔力が戻っていると気づいている……。
「それにあなたの魔力の色……」
「魔力の色?」
「ええ、あなたの魔力の色は、ソフィアにそっくりね」
「……」
ゼノンは言っていた。魔法使いの中には魔力から情報を読み取る力を持つ者がいると。ミレーヌ聖女も、そんな能力をもっているに違いない。
もう、隠し通せない。ソフィアにそっくり……。ミレーヌ聖女が母の名前を出してきたなんて……。
「アリアさんは、出身地を誤魔化して、年齢も誤魔化しているわよね」
……バレている。
「事情を話してくれる?」
もう隠し事などできない状態だった。絶体絶命な場面で助けてもらった聖女に、嘘を重ねることもできない。
「実は……」
私は、これまでの経緯を説明した。アレクシオ王子から婚約破棄されたアメリアであること。王妃殺害の罪を着せられ逃げていること。そのため、老け顔に変装していること。変装してアリアと名乗り、王妃を救ったこと。ただその時に、私はネリ公国の出身だと偽り、その嘘が暴かれそうになっていたこと。ミレーヌ聖女のおかげで、今のところ嘘が暴かれずにすんでいること。
ミレーヌ聖女は、私の話を頷きながら聞いてくれた。そして聞き終えるとやさしい笑顔を向けてくれた。どうやら事実を知っても、不快な気持ちにはなっていないようだ。
「あなたは正直な人ね。私はあなたの話を信じるわ」
「ありがとうございます」
「これからも何か困ったことがあったら、相談してくださいね」
「……、どうして聖女は、私の嘘に付き合ってくださり、救ってくれたのですか?」
「それは、あなたの指輪を見たからよ。その指輪はソフィアが付けていたものよ」
「お母さんがこの指輪を……」
母は魔法が使えなかったはずだ。なのに、どうして?
先ほどミレーヌ聖女は、母と私の魔力の色がそっくりだと言った。しかも、魔力封じの魔道具の指輪を、魔法の使えない母が付けていただなんて。
「アリアさんが、指輪をお母様から譲り受けたと言った時、あなたがソフィアの娘だと気付いたわ」
私は混乱しながらミレーヌ聖女の話を聞いていた。
母は、魔法が使えないはずでは……。だから母は、魔法が使えなくなった私を見て、あんなに喜んでいたのだ。しかも、魔法が使える私に嫉妬して、この指輪で故意に魔力を封じたのだ……。けれど……、なぜか母自身も、魔道具の指輪を使い……。魔法が使えない母が、どうして魔力を封じる必要などあるの? 考えれば考えるほど、訳がわからなくなってくる。
「私は、あなたのお母様に大きな借りがあるのよ。それを返す前にソフィアは亡くなってしまったのだけど……。だから今、娘であるあなたを助けようと思ったの。ソフィアが喜んでくれるんじゃないかと思って」
母のことをいろいろ聞きたい。そう思っていた時だった。誰かがコンコンとドアをノックした。
「どうぞ」
ネリ公国の高官が姿を見せた。
「ミレーヌ聖女、そろそろお時間が」
「そうだったわね」
高官に返事をすると、ミレーヌ聖女は微笑みながら私の手を握ってきた。
「ごめんなさい。もう帰らなければいけないわ」
まだ聞きたいことが山ほどあった私は、このまま聖女と別れてしまうのは名残惜しくて仕方がない。けれど、忙しい合間をぬっての訪問だったのだろう。無理に引き止めることもできない。
でも、これだけは聞いておかなければ……。そう思い、私は部屋を出て行こうとする聖女の背中に声をかけた。
「最後に一つだけ教えてください」
「なに?」
「母は、母は、魔法が使えたのでしょうか?」
「使えたわよ。しかも、あなたのお母さんは、とても優秀な魔法使いだったのよ」
その言葉を残し、ミレーヌ聖女は部屋から出て行ってしまった。
※ ※ ※
宮殿を出た時、思わぬことが起こった。門を出ると意外な人物が立っていたのだ。門番から少し離れたところで、背の高い青年がじっとこちらを見ていた。そして、私の姿を確認すると、青年は駆け寄ってきた。
「ゼノン、いったいどうしたの?」
走り寄ってきたゼノンは、口を真一文字に結んだ。
「魔法学校から帰るとお姿が見えませんでしたので、宮殿かと思いまして」
「もしかして、ずっとここで待ってくれていたの」
「はい、お姿を見ることができて良かったです。もうこのまま、お会いできないのかと……」
ゼノンは声が震えてしまい、泣きそうな顔になっていた。
「ご無事だったのですね?」
「ええ、大丈夫よ」
「良かった」
「あなたのお陰で助かったのよ」
「え?」
「ゼノンが指輪を付けた方がいいと言ってくれたでしょ。おかげで助かったの」
ゼノンは不思議そうな顔をしている。
「どういうことですか?」
「また帰ったら教えてあげる。さあ帰りましょう」
そう言って私は、王宮からの馬車を断り、ゼノンと二人で歩いて帰ったのだった。




