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118 「愛している。言葉では足りないほどに」

星脈観測施設をあとに、馬車が走り出した。

エルヴィンは、先ほどまでが嘘のように何もしゃべらなかった。


帝都別邸につき、玄関をくぐると無言のまま自室へと導く。


急いでいるわけではない。

だが、普段より半歩だけ速い。


なぜそんなに急ぐのか分からず、呼びかける声も、足音にかき消される。


エルヴィンの部屋の大きな扉が開き、そして、空気を押し出すような音を立てて閉まる。その音は、何かが始まる合図のようだった。


エルヴィンは、急いで両の手のひらから魔導陣を出すと、二つを重ねて私たちの周りに広げた。私たち二人は、青く透明な膜に包まれた。


「これで、邪魔は入らない」


これって……超弩級の防音・防視結界だよね。国家レベルの重要機密を使うときの。これからいったい、何するつもりなの?

 

「アリア」

エルヴィンが、私の手をとった。


「アレクセイは、私に、おまえを守れる男だという証を立てろと言った」

「……はい」

「だが、私はおまえには、隣に立って共に歩んでほしい。互いを守り、慈しみ、共に闘う。そんな関係でありたい」


そこまで言うとエルヴィンは、少し緊張した面持ちで私を見つめた。


「どうか私の妻になってほしい。おまえの隣に立つためなら、私は持てるものすべてを捧げよう。どんな、努力でもしよう。……これで、あのときの白薔薇の庭での、おまえへの答えになっているだろうか」


エルヴィンの言葉は、私の心にすっと染み入るようだった。嬉しい。嬉しい。彼がこの言葉を口にするまでには、いろんな葛藤があったと思う。でも、私と一緒に生きたいと言ってくれた。その気持ちが、嬉しくて、嬉しくて、嬉しい。胸がどきどきして、爆発しそうだ。


「私も、同じ気持ちです!」

私は勢いよく、エルヴィンに抱きついた。


冷えた星影の香り。彼の髪が私の頬をくすぐって心地よい。

「……私も、これからもずっと、あなたと一緒にいたいです」


「ありがとう」

少し震えた声が、耳のすぐそばに降りてきた。


「愛している。言葉では足りないほどに」


そして、彼の指が、私の髪へと伸びた。指先で撫でて、丁寧に梳く。一筋の髪を耳の後ろへ流し、うなじの線を確かめるように辿る。


「おまえが欲しい」


彼の指が、耳朶のふちを撫でて、首元へと滑り落ちてゆく。指先のわずかな感触に集中させられて、胸が苦しい。


「あの……」

上ずった声が出た。


彼は、動きを止めて私を見た。

「嫌だと言えば、やめる」


そう言うと、私の顎に指をかけ、静かに持ち上げた。親指が、そっと私の下唇をなぞった。やわらかく、ゆっくりと輪郭を確かめるように。唇の端を辿り、ほんのわずか押す。親指の先がわずかに口内へ触れた。


「ん……」


思わず声を出た。と、指がさらに少し、中へと入った。ぞわり、と甘い痺れが体に走る。視界が涙で滲んだ。思わずエルヴィンを見上げると、指の動きが止まった。


「良いか?」


野生の獣のような鋭い眼に、それが何を意味しているか分かった。


嫌、じゃない。

私は、小さく頷いた。


唇が触れる。

最初は短く、わずかに。

角度を変え、もう一度。

そして、さらにもう一度。


離れたと思った瞬間、また触れる。そのたび、まるで堪えていたものがほどけるように、口づけは深くなっていった。


彼の吐息が混じり、熱が移る。唇が荒く食まれ、舌が触れ、絡めとられ、口の中を探るように動く。触れられるたび、身体の奥まで痺れが走る。


身体も、頭の中も、すべて彼で満たされてゆくような感覚が押し寄せて――

次の瞬間、世界がふっと遠のいた。


◇◇◇


「……アリア?」

崩れ落ちる身体を、エルヴィンが抱きとめた。


慌てて無事を確かめる。呼吸はある。脈も正常だ。どうやら、気を失っただけのようだ。彼は安堵の息を吐いた。


無理もない。


エルヴィンは腕の中にある、柔く滑らかな光を見つめた。睫毛の影。触れればほどけてしまいそうな白い頬。唇のやわらかさ。吐息の温度。彼女は、どこもかしこも、愛らしく、甘い。つい、手加減ができなかった。それどころか、触れるほどに熱は高まる一方で、このまま彼女の柔肌を暴いてしまいそうになるほどだった。


結婚も婚約もしていない状態で、こんな風に触れることなど、あってはならない。それは重々、承知していた。それでも、止められなかった。自分のものだと刻みつけたくなった。


愛する人に触れることが、これほど心地よく、幸福なものだとは思いもしなかった。なにより、相手も自分を愛してくれているというのだから、我慢する方が無理というものだろう。


「ん……」


腕のなかで、彼の最愛が身じろぎした。甘い香りが心をくすぐり、新たな欲望が頭をもたげそうになる。柔らかな誘惑に負けるその前に、エルヴィンは彼女を寝台へと横たわらせた。


「まったく、罪深いな」


低く落ちた声は、欲望か。それとも、自身への戒めか。

彼にも、もう分からない。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

5/8に完結いたします。


次回、アレクセイ第一皇子殿下が登場。


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